話し相手の心を把握し、絶妙な距離でつっこみを入れる天才。
インタビューでは、どんな人よりも最高の話を引き出す女性。
相手の心底を引き出すことについて、この人の右に出る人はいない!
こんばんは、ラブです。
TVタックルでは、党の方針を少しでも多くアピールしたい政治家や、話のとまらない政治評論家、辛口なおじさんおばさんたちの話を見事に切り上げ、脱線しまくりな内容を修正する阿川佐和子さん。
TVで見ていても、切り返しや突っ込みのうまさに舌を巻いてしまいます。
インタビューの番組では、相手をちょっと怒らせたりもしながら、ほかのインタビュアーでは絶対見られない、出演者の本質的な話を引き出しています。
そんな阿川佐和子さんの『聞く力』に続いた著書、『叱られる力』。
エッセイをまとめた本となっています。
この本を書くにあたって・・・
「アガワさんが、インタビューでいちばん大事だと思っていることは何ですか?」
前著の大ヒットにより、インタビューを受ける側になって、これを訊かれたそうです。仕事でさまざまな癖のある難解な相手にインタビューすることが多い著者。
とっさに考えたのは、
「相手に不機嫌になってほしくない」
「怒って帰ったりされたくない」
ということ。
だからこそ、その人の気持ちにできるたけ寄り添おうとする。
そのためには、「相手の言葉に耳を傾ける」ことに尽きるそうです。
どうもみんな怖れている
今の時代の人間が悩んでいることは、人に対しての怖れではないかと著者は言います。
怖れている。
見知らぬ人を。上司を。部下を。家族を。
面と向かうことを避け、話すことに戸惑い、話を聞くことにも逡巡し、仲良くなりすぎることを警戒し、傷つきたくないと身を固め、でも一人になることには心底、恐怖を覚えている。
・・・ワタシ自身もそうだと思います。
著者は、この『聞く力』から派生した疑問を、様々な立場の人にぶつけ、時に杯をくみかわしながら、「他人と付き合う時、みんなどうしてる?」問題について主題して回った意見や悩みを著者なりに解釈し、つれづれに語っています。
叱る覚悟・聞く力
会話を始めるきっかけ
会話のきっかけがつかめないという、ベテラン女性編集者の話から。
上司のオジサンたちとどうしても仲良くなれなくて、悩んでいました。
そこへ新人が、瞬く間に楽しそうに会話できるようになっている。
「どうしてそんなにオジサンたちは仲良くできるわけ?」
と訊いてみると、あっけらかんとした顔で、
「簡単ですよぉ、褒めればいいんですよぉ。
ネクタイでも靴でも時計でも原稿でも。
良いネクタイですねとか、先輩の書いた文章面白かったです、とか。」
確かに人はささやかな褒め言葉に弱いもの。
でも、無理に探すとお世辞臭くなるし、「嘘っぽいな」と自分自身が内心で思っていると、どこかにわざとらしさが表れる。
だから、できるだけさりげなく、相手の姿かたちや言動をじっと観察し、なにか一つでも「ここはいいな、ステキだな」という個所が見つかったら、それをほめ言葉に変換してみる。
そうすれば、相手との関係は格段に良くなると、著者は信じております。
・・・「じっと観察し」「ステキな箇所が見つかったら」がどうも上手くいかないんですけどね。どうやったら見つかるのか、さりげなく褒められるのか・・・・、読み進めてみましょう。
後輩を叱る覚悟
著者の知り合いの編集プロダクションの女社長の話。
その女社長も若いころは徹底的に鍛えられ、頻繁に怒号を飛ばされて胃が痛くなったことも。
そんな彼女が、社内のベテラン社員たちの目下の悩みを知ります。
「後輩を叱れない」
いざとなると言葉やタイミングに迷い、つい見過ごすことになる。
過度に落ち込んだら、と思うとかえって面倒だったり。
でもそうこうしているうちに、現場で意思の齟齬が起きていることを知り、女社長が部下を直接叱る覚悟を決めました。
「でもね」と社長。
「叱るとき、毎回手が震えちゃうんですよ。やっぱり私も叱り慣れていないんですよね。」
・・・なかなか、叱ることって今難しいですね。
怖い顔の利点
大竹まことさんは姿勢もいつも良くて、とても近寄りがたい雰囲気を普段出しているそうです。
ところが実際の大竹まことさんは、渋い顔の割に気遣いが細かくて優しいので、ゲストはその落差に驚くそうです。
怖い人はにっこりした時百倍優しい人に見えるから、得ですねって話。
でも、女性はこうはいきません。
著者はテレビの仕事を始めたころ、生番組のオープニングについて番組プロデューサーに、
「女は愛嬌です。もっと笑顔を作って挨拶しなさい」
「愛媛みかんと三度唱えなさい」
と教えてもらっています。
「愛媛みかん」は「い」「え」の母音で構成されているから。
同じ叱るのでも「うるさい!」と怒鳴ったのが女性であれば、男性に比べ声が高いせいか
「なんだ、ヒステリックだな」
と周囲のひんしゅくも買いかねないですよね。
そこを言葉でカバーするそうです。著者の場合はこう言うそうです。
「うるさいですよ!」
でもこれだとどうも、迫力に欠けるのですね、と著者の談。
・・・女性が強く叱る場面って、本当に難しいです!
柔らかい物腰って大事ですね。
部下の叱り方は、「かりてきたねこ」の法則
(株)ライフバランスマネジメント研究所の渡部卓さんの発案したものだそうです。
か・・・感情的にならない
り・・・理由を話す
て・・・手短に話す
き・・・キャラクター(性格や人格)に触れない
た・・・他人と比較しない
ね・・・根に持たない
こ・・・個別に叱る
子どものころ著者は、有名な暴君系の父親に叱られて、「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」なんて言われたりしていました。
でも、その言葉では、なぜ叱られたのかわかりません。「説明してよ」と思ったそうです。
どうして突然著者の父が不機嫌になったか、わからなかった著者は、とりあえず「サワコが悪かったから」と言うのが精一杯でした。
・・・「自分で考えろ」では、叱っている意味をなしていないんですね。
「他人と比べない」問題にしても、著者の父はしょっちゅう
「そもそもサワコはお兄ちゃんのように本を読まないからダメな人間になっている」
とたっぷり比較されていました。・・・嫌ですね~。
でも、実際自分が叱る立場になると難しいもの。
著者も「感情的にならずに叱るのは、とても難しい」と言っています。
「酒場の本音」を肝に銘じる
「婦人画報」という月刊誌の編集者(顔も声も細川俊之並みにステキだそうです)との話。
エッセイを始めてしばらくしてから、飲みに行ったそうです。
はじめは、
「連載、調子いいじゃないですか、なかなか面白い!」
と言っていた「婦人画報」編集者。
生放送を控えていたので著者は飲めなかったのですが、時間が過ぎるうちに酒が回り、その低音の美声で
「エッセイと日記は違う!」
とお叱りの一言が出たそうです!!
それ以来、著者はエッセイについて以前よりちゃんと考えて書くようになったとのこと。
「お酒って、本当に人を豹変させて面白い。
本音を聞く絶好のチャンスになる。
もちろん飲みすぎて人に不快感を与えては元も子もないけれど、面白く思う程度にとどめておけば、きっと昼の仕事場ではしることのできない新鮮な発見があると思う」と著者は述べています。
・・・お酒が苦手なんでつい遠慮する飲み会ですが、付き合い方の一つとしてもう少し参加してみようかな~と思いました。
叱られる覚悟
男女雇用均等法が施行された直後に大手都市銀行に入社して、当時めずらしく営業を担当させられた女性の話。
取引先の会社に行くと
「なんで女を担当につけるんだ。ウチの会社もずいぶん軽く見られたもんだ。他行からもこの間、初めて女性担当者が来たけど、男に変えてもらったよ」。
そう言われてがっかりしながら、上司に男性に担当を変えた方がよいのでは、と上司に進言。
すると、
「いや、違う。今のその相手先に、この担当者でよかったと思わせるのがお前の仕事だ」。
彼女は開き直り、最新の記入情報や新しい保険商品を徹夜でみっちり頭に叩き込み、文句を言われた取引先に持っていき、懲りることなく通い続け、丹念に説明したところ、しだいに相手も素直に話を聞いてくれるようになり、彼女が訪ねてくるのを心待ちにし始めたそうです。
営業の醍醐味と達成感を味わって、それ以来、一見感じの悪そうなお客さんを相手にするのは苦にならなくなったそう。
・・・しびれる話です!任せて育てるって大事です!!
テレビ局に勤める敏腕女性記者の話。
「部下に仕事で失敗されて、その尻ぬぐいをして、こっちも疲れ切っている中で、よかれと思ってエネルギーを振り絞って叱りつけたら、『パワハラだ』って言われるんですよ。
私なんか社内で鬼扱い。
『いいよ、いいよ、気にしないで』と叱るなんて一切しないで最初から自分で全部片付けた方が楽ですよ。
でも、そういうふうになると部下は育たないどころか増長するし、行きつくところは組織全体が弱体化することにないかねないから、結局鬼と呼ばれるしかないんです。
だいたい見どころのないヤツは叱らないわけで、期待する人材だから叱るんだってこと、あいつら、わかってないですよ。」
・・・「叱られるうちが花」とはよく言ったものですね。
上手な叱り方・・これはやめた方が良い 言い回し
「みんなそう言っているわよ」
と付け加える人がたまにいます。
あれは応えます。「よし直そう」という気力がわく前に、ムラムラと腹が立ってきます。
そのうち、「そうか、私のこと嫌いだったんだ」と極度に悲観的結論に達するのです。
「いかがなものか」
これも、改まった場所で使う人がいますが、なんとなく感じが悪く聞こえませんか。そもそも相手より上位からの批判です。
加えて、「はっきり間違っていると言いたいところなんだが、世間のみなさんは、はたしてどう思うでしょうねえ。」という相手の心を試すようなイヤミな匂いがぷんぷんする。
「そんなのは、あなたらしくないわ」
よくよく考えてみたのですが、「アガワらしくない」ことは、その発言者にとってどの部分を指すのか、わからなかった。
「いったいあなたがどれほど私のことを知っているというの?・・・勝手に決めつけないで」
「いつもそうなんだから」
つい口から出てしまう言い方。
女性はけっこう使うでしょ。私には、相手のミスが「いつも」に見えるけれど、実際のところは「いつも」じゃないんでしょうね。
テレビ局のプロデューサーが横で電話をかけていた時のこと。
いくらかけても話し中。何度も受話器を切ってかけなおします。そばにいる著者もイライラしているうちに電話がつながりました。
プロデューサーは
「何度もお電話したのですが」
「すぐにお返事をというお話だったので、ずっと電話していましたが」
なんて一言も言わず、
「もしもし、今よろしいですか。昨日の件ですが」
と即、用件に入りました。
出かける用事が切迫していなくても一言言いたくなるところを、「屁」とも思わず、相手の気持ちを騒がせるより仕事優先。これぞ仕事のできる人のなせる業かと感服しました。
・・・すばらしい!このプロデューサーの技!
そして、ちょっとした日常でつい使ってしまう言葉の残酷さを、著者は本当によく気づいています。反省!
叱られること、叱ること。
とっても難しいけれど、鬼の役目をしてでも頑張りたいな~、と思いました。
叱られたことを糧にできる心の柔軟性、大事ですね。
TVタックルでどの人もめちゃくちゃしゃべりたがっている所を、絶妙なタイミングで再拝していく阿川佐和子さん。
でも、おっかないオジサンたちも、この人相手だと話を中断しても許してくれる。それは、この人が上手に叱られてくれるからだと思います。
前著でも、相手の気持ちを汲み取る天才だと思いましたが、今回は叱って叱られること、それを吸収することの大切さを教えてくれました!!
この人は本当に考え方の腰が低い。
考え方が柔軟で謙虚。
だから、どんなゲストもこの人には心の底にある大事な話をしたくなっちゃうんですね!
明日は土曜日。少しは休めたらいいですね?
今週もお疲れさまでした。
温かくして、ゆっくりお休みください。
では、また。