やつれ顔の学生たちが図書館のデスクやノートパソコンに突っ伏して、ゾンビ顔で寝ているのは、スタンフォードではおなじみの光景だそう。
期末試験の7日間は”死の1週間”と呼ばれ、カフェインと糖分を求めてさまよう姿が、ちらほら見えるそうです。
いろいろな知識や公式をこれでもかと頭に詰め込みながら、何日も徹夜を続けるそうです。
けれども、こうした涙ぐましい奮闘には犠牲がともなうことが、研究によって明らかになっています。
期末試験のあいだは、勉強以外のこととなると、タガが外れてしまう学生が多いのだそう。
タバコの量が増え、サラダバーには目もくれず、フライドポテトにまっしぐら。
感情が爆発しやすくなり、バイク事故も多発。
シャワーも浴びず、ひげもそらず、着た切りスズメに。
第3章 疲れていると抵抗できない
自己コントロールの科学によって明らかにされた厳然たる研究結果です。
それは、人は意志力を使っているうちに、「使い果たしてしまう」ということです。
たとえば、24時間禁煙した喫煙者は、アイスクリームをドカ食いしてしまう確率が高くなります。
大好きなカクテルを我慢した人は、持久力のテストで体力がおちているのがわかります。
最も穏やかならぬ例は、ダイエットをしている人は浮気をしやすくなること。
意志力を使い果たしてしまうと、人は誘惑に対して無抵抗な状態か、もしくはかなり弱い状態になってしまうのです。
研究結果によれば、自制心が最も強いのは朝で、そのあとは時間がたつにつれて衰えていきます。
ですから、ようやく一息ついて自分にとって大事なことをしようと思う頃・・・仕事の後にジムに行くとか、大きなプロジェクトに取り組むとか、いざというときの引き出しのおやつには手を付けないでおくとか・・・意志力などは、これっぽっちも残っていません。
また、一度にあまり多くのことをコントロールしたり変えたりしようとすれば、やはり意志力を使い果たしてしまいます。
それは、あなたのせいではなく、意志力の性質のせいなのです。
自制心は、筋肉のように鍛えることができる!
意志力の限界を最初に体系的に観察して実験を行ったのは、フロリダ州立大学の心理学者ロイ・バウマイスターです。
この15年間、彼は研究室で人々に意志力を発揮してもらうために、さまざまな実験を行ってきました。
クッキーを勧められても断るとか、気が散るものに注意を向けないとか、氷水に腕を付けたまま我慢する、などです。
手を変え品を変え、次々に実験を行いましたが、いずれの場合も、被験者の自制心は時間の経過とともに低下しました。
集中力の実験では、時間がたつにつれて注意力が散漫になるだけでなく、体力も奪われていきました。
感情を抑える実験では、最後にキレてしまうだけでなく、必要のないものまで買ってしまう傾向が見られました。
甘いお菓子を我慢する実験では、被験者はチョコレートを無性に食べたくなっただけでなく、やるべきことを先延ばしにする傾向が見られました。
こうした結果から、意志力はつねに同じ源から引き出されていることがわかります。
自己コントロールがひとつ成功するたびに、疲れが増していくかのようでした。
これらのバウマイスターは「自制心は筋肉に似ている」という仮説にたどり着きました。
人はほんのささいなこと・・・たとえば20種類ある洗濯用洗剤のうちどれを選ぶか?・・・そんな些細なことにすら意志力を使っています。
脳と体が休止して計画を練る必要があるとすれば、いわば自己コントロールの筋肉をほぐしてやること。
意志力の問題による失敗は、必ずしも自分自身のせいではない。
むしろ、自分がそれまでにどれほど頑張ってきたかを示しているようなものです。
しかし一方で、この研究結果により、ものすごく大変な目標にチャレンジしても、しょせんは失敗してしまう可能性もあるということ。
でも、意志力の消耗を食い止め、自制心を強化する方法はいろいろあるのです。
筋肉と似ている意志力は、疲れているとうまくいきません。
まず、消耗する瞬間を見極め、自己コントロールに必要なスタミナを強化するトレーニング戦略を探っていきます。
マイクロスコープ:意志力の増減を観察する
意志力を筋肉だと思えば、1日の終わりには自制心が弱くなってしまうのもうなずけます。
今週は、自分の意志力が最も強いのはいつか、逆に最も弱いのはいつか、注意してみましょう。
朝、目が覚めた時に意志力が最も強く、その後だんだん弱くなっていますか?
それとも、1日のうちでどこかで意志力が再びみなぎる時間、リフレッシュした気持ちになれる時間はありますか?
そのように自分のパターンを知ることで、スケジュールをうまく建てられますし、意志力が弱くなるタイミングをつかんでおけば、誘惑に負けそうになるのを未然に防ぐこともできます。
甘いものが「自己コントロール」を回復する
脳には自己コントロール筋のようなものが存在します。
意志力を繰り返し使うたびに、コントロールシステムの活動量は鈍くなっていきます。
疲れたランナーの足が止まってしまうように、脳にも動き釣るけるだけの力がなくなってしまうのです。
それを確かめるのは糖分です。
マシュー・ゲイリオットの研究では、気が散るものを無視するタスクから感情を抑制するタスクまで、さまざまな自己コントロールの実験を行いました。
核実験の前後の被験者の血糖値を測定したところ、自己コントロールの実験後の血糖値の下がり方が大きいほど、その人の次の実験結果は悪くなりました。
あたかも自己コントロールのせいで体のエネルギーを消耗して、またそのせいで自己コントロールが弱まっていくかのようでした。
血糖値が低いと、難しいテストを投げ出したり、機嫌が悪くなって他人に当たり散らしたりするなど、さまざまな意志力の問題が生じることがわかりました。
ほかの研究では、血糖値の低い人は固定観念にとらわれる傾向があり、チャリティーなどの寄付をしたり他人を助けたりすることがあまりないことがわかりました。
「1分の自制」のエネルギーはミント半分以下
しかし、自己コントロールを1分行うにつきブレスミントの1粒の半分にも満たない、という残念な結果があります。
脳が行うほかの作業に比べれば、それでもたしかにエネルギー量は多いもの。
でも、体が行うエクササイズを行う場合に比べればはるかに少ない量です。
腹が減っていると危険を冒してしまう
体内に備えたエネルギー量が減っているとき、脳は自制心を発揮しなくなります。
それには理由があります。
ドボルザークとワンの主張によれば、私たちの脳は、現代人の脳であってもいまだに血糖値によって、食べ物が手に入りそうか、あるいはたくさん手に入りそうかを判断しています。
人間の脳がまだ形成期にあったころには、血糖値が下がる原因は、エネルギーを大量に消費する前頭前皮質の力をふりしぼってクッキーを我慢したからではなく、食べ物が手に入らない状態だったから。
しばらく食べ物を食べない状態だと、血糖値が下がります。
体内に蓄えたエネルギーの量を監視している脳は、その血糖値のレベルによって、すぐにでも何かを見つけて食べなければ死んでしまうと判断します。
植えたりしないように、脳は危険を顧みない衝動的な状態に切り替わります。
実際研究によれば、現代人も空腹のときには危険を冒す傾向があります。
おなかがすいているとリスクの高い投資に手を出したり、ダイエットをした後浮気に積極的になったりします。
残念ながら現代にこの本能は、もはや利益をもたらしません。
意志力の実験:お菓子の代わりにナッツを食べる
確かに、非常時に糖分をとれば、一時的に意志力をアップさせます。
しかし、長い目で見ると、やたらに糖分をとるのは自己コントロールの戦略によくありません。
ストレスの多い時期にはお手軽な加工食品、とりわけ脂肪分と糖分が高くてハッピーな気分になれる食べ物に手を出しがちです。
しかし、血糖値の急激な上下は、体と脳が糖分をきちんと消費できなくさせます。
血糖値が高いにもかかわらず、エネルギーが低い状態になってしまうのです。
もっともよい方法は、体に持久力のあるエネルギーを与えてくれるような食べ物をとること。
低血糖食、つまり血糖値を一定に保つための食べ物です。
低血糖食とは、脂肪分の少ないたんぱく質、ナッツ類、豆類、食物繊維の豊富な穀物、シリアル、ほとんどの果物、野菜などです。
それでいて、糖分や脂肪や化学物質などの大量の添加物の入っていない食品です。
がんばれば、がんばるほど、うまくいかないことがあったのは、「意志力を使い果たしてしまったから」。
でも、疲れ切った時にジャンクフードが無性に食べたくなります!
そこをうまくコントロールしたいものです。
今日もお疲れさまでした。週も真ん中ですね。
暖かくして、ゆっくり休んでくださいね。
では、また。