多くの人は、将来の自分について、まるで他人のように感じてしまいます。
しかし、将来の自分を身近に感じれば、もっと将来のためになることに行動していくことがたやすくなるかもしれません。
「将来と自分のつながり」は個人差がある
ニューヨーク大学の心理学者ハル・エルスナー・ハーシュフィールドは、将来のために貯蓄をしないのは、まるで他人のためのような感じがするからではないか、と考えました。
これを確かめるため、彼は「将来の自分とのつながり」という指標を考えました。
将来の自分と現在の自分を同じ自分としてどの程度重ね合わせて認識しているかを測る指標です。
現在の自分の円と将来の自分の円があるとして、その2つの円はあなたの場合、どんな関係ですか?
重ならず、隣り合っているのでしょうか。
少し重なっているのでしょうか。
大きく重なり合っているのでしょうか。
ハーシュフィールドによると、将来の自分とのつながりが強いほど、つまり2つの円の重なりが大きいほど、貯金が多く、クレジットカードの負債も少なく、将来の自分が安心して暮らせるように、経済的な備えをしていることがわかりました。
バーチャル体験で貯金が増える
将来の自分を身近に感じられないせいで、先のことを考えた行動できないのであれば、逆に将来の自分を身近に感じられれば、もっと将来を見据えた行動ができるようになるのでしょうか?
ハーシュフィールドは学生たちに、未来の自分と出会わせる実験を行いました。
コンピューターアニメーションの専門家の協力を得て、経年人相がのソフトウェアを用いて、3次元のアバターを制作したのです。
これにより、実験に参加した大学生は退職後の自分の姿に出会うことになりました。
バーチャルの中で、学生たちは年を取った自分のアバターに向き合いました。
自分が動けば、アバターも同じく動きます。
学生が鏡の中の自分のアバターを見つめているあいだに、実験の担当者が質問していきます。
「お名前は何ですか?」
「出身地は?」
「何か打ち込んでいるものはありますか?」
学生が質問に答えると、まるで将来の自分が答えているように見えます。
そんなふうに将来の自分に出会ってひと時をすごしたあと、学生はバーチャルリアリティーの研究室を出て、今度はお金の使い道を決める実験に参加します。
各学生は1000ドルの予算を与えられ、現在の生活費や遊びのお金、当座預金口座へ入れるお金、退職金興亜へ入れるお金などに割り振っています。
将来の自分に出会った学生は、ふつうの鏡でいまの若い自分の姿を見ただけの学生に比べ、なんと2倍以上ものお金を退職金口座へ割り振りました。
将来の自分のために、ひいては自分自身のために、お金を貯めようという意識が強くなったのです。
将来の自分を身近に感じるための方法は他にもあります。
将来の自分とのつながりが強くなれば、貯金が増えるだけではありません。
どんな意志力のチャレンジにも効果が表れてきます。
将来の自分とのつながりが強くなると、「いま」できるかぎりの最高の自分になろうという意欲がわいてくるのです。
たとえば、将来の自分とのつながりが強い人は、実験にも時間通りに現れましたが、将来の自分とのつながりが弱い人は、実験をさぼり、日時を決めなおす傾向が強いことにハーシュフィールドは気づきました。
おもいがけない結果に驚いた彼は、さらに将来の自分とのつながりが倫理的な意思決定にどのように影響するかを調べました。
彼の最新の研究でビジネス版のロールプレイングゲームを行ったところ、将来の自分とのつながりが弱い人たちは、あまり倫理的ではない行動をとる傾向が見えました。
オフィスで拾ったお金を猫糞したり、他人のキャリアを台無しにする可能性のある情報を平気で漏洩したりする確率が高かったのです。
このように、将来と自分のつながりが弱いと、自分の行動があとでどんな結果を招こうが、おかまいなし、といった態度が出ます。
それとは逆に、将来の自分とつながりが強いと、最悪の衝動に負けないで、自分を守ることができるのです。
意志力の実験:未来に行って「将来の自分」に会う
未来へ行ってみることで、賢い選択ができるようになります。
次の3つは、未来を現実的に感じ、将来の自分を身近に感じるアイディアです。
今週試してみてください。
①未来の記憶を作る
ドイツのハンブルクーエッペンドルフ大学医療センターの神経科学者たちは、「将来について想像すること」は欲求の充足を遅らせるのに役立つことを示しました。
それも、「将来の報酬」を思い描くのではなく、「ただ将来のことを考えるだけ」で効果があったのです。
たとえば、プロジェクトをすぐに立ち上げるべきか、それとも延期するべきか。
来週は予定通りミーティングに出席しようか、それとも買い物に行こうか。
そんなことを考えてみてください。
頭の中で将来のことを思い描くと、脳はあなたの現在の選択が将来に及ぼす影響を具体的に即座にはじきだします。
将来のことをリアルに鮮やかに感じるほど、将来の自分が後悔しないような意思決定ができるようになります。
②将来の自分にメッセージを送る
ウェブサイト「フューチャー・ミー」の創設者たちは、将来の自分にメールを送れるシステムを作りました。
2003年以来、このサイトでは人々が将来の自分に向けて書いたメールを保管し、書いた本人が指定した日に送信するサービスを提供しています。
こんなふうに「将来の自分は何をしているだろう」「いまやっていることを将来の自分はどう思うだろう」と考えてみてはいかがでしょう。
長期的な目標の達成に向けて、いま自分がしようと思っていることを、将来の自分に打ち明けてみましょう。
将来の自分にはどのようであってほしいですか?
自分は将来どのようになると思いますか?
あるいは、将来の自分がいまの自分をふりかえっているところを想像するのもよいでしょう。
どんなことをすれば、しょうらいのあなたはいまのあなたに感謝するでしょうか?
ハーシュフィールドは、そのような手紙に何を書こうかと考えてみるだけで、将来の自分とのつながりが強くなったように感じるといっています。
③将来の自分を想像してみる
数々の研究によれば、将来の自分を想像することで、現在の自分の意志力が強くなります。
ある実験ではカウチポテト族に将来の自分の姿を2通り想像してもらいました。
1つめは定期的にエクササイズを行って健康で活力にあふれた理想的な自分の姿。
もうひとつは、体をほとんど動かさず、健康上の問題で苦しんでいる恐ろしい自分の姿です。
どちらの姿にもはっとした彼らは、カウチポテトをやめ、2か月後には、未来の自分の姿を想像しなかった実験グループの人たちよりも、頻繁に運動するようになっていました。
意志力のチャレンジに関して、あなたは望ましい変化を遂げ、その成果を味わっている理想的な将来の自分の姿を想像することができますか?
それとも、変化を起こせなかったせいで未来の自分は苦しんでいるのでしょうか?
細かいところまでまざまざと思い描いてみてください。
未来の自分の姿を具体的に思い描いてみると、「これをやっている場合じゃないな」とか「これをやっておきたい」ということが感情レベルでふつふつとわいてきませんか。ちょっとしたスキマ時間に、将来の姿を想像してみると、意志力が強くなるかもしれません。
今日も1日お疲れさまでした。
すてきな夢が見られますように。
では、また。