人は目標にふさわしい行動をとる機会が訪れただけでもいい気分になってしまい、実際に目標を達成したような気分になってしまうということがわかっています。
あなたは今日のランチタイムで、あまり時間がありません。
何かさっと買ってくるために、ファーストフードの店に入りました。
太りそうなメニューを避けたいところ。
うれしいことに新メニューのサラダがいろいろ増えています。
大喜びで、ガーデンサラダにしようか、チキンサラダにしようか悩みます。
さて、とうとうレジの前に立ったあなたは、思いがけない言葉が自分の口から飛び出してくるのに驚きました。
「ダブルチーズバーガーとフライドポテト」。
サラダを見ると、ジャンクフードを食べてしまう
いったいどうしちゃったのでしょう?
いつもの癖が出てしまったのでしょうか?
ポテトの匂いがいけなかったのでしょうか?
実は、メニューにヘルシーな品物が乗っていたせいで、チーズバーガーとフライドポテトを注文したくなったと聞いたら、信じられますか?
これはニューヨーク州立大学バルーク校のマーケティング研究者たちが行った数々の研究から得られた結論です。
マクドナルドのメニューにヘルシーな品物を加えたとたん、ビックマックの売り上げが驚異的に伸びたというレポートに、研究者たちは興味をそそられました。
人は目標にふさわしい行動をとる機会が訪れただけで、いい気分になってしまいます。
実際に目標を達成したような満足感を覚えてしまうのです。
そしてヘルシーなものを選ぶという決心はどこかへ吹き飛び、まだ満たされていない欲求である、目先の楽しみが最優先になってしまいます。
ヘルシーな食べ物を注文しなくては、という決心は弱まり、ジャンクフードを食べたい欲求が強くなります。
すると、まったくおかしいことに、メニューでもとりわけ動脈を詰まらせ、お腹を出っ張らせ、寿命を縮める原因になりそうな食べ物を選んでしまうのです。
「意志が強い」と思っている人ほど失敗する
「自分はそんな影響を受けたりしない」と思っている人に、残念なお知らせです。
確かに実験に参加した人たちより、あなたの自制心は強いかもしれません。
しかし、実験の参加者の中でも、とくに食べ物に関する自制心が強いと自負していた人の大半は、メニューにヘルシーなものがあるにもかかわらず、最も太りそうなものを選んでいました。
メニューにサラダが乗っていなかった場合は、このような自称”意志力の鉄人”たちが最も太り差そうなものを選ぶ割合は10%。
ところがメニューにサラダが乗っている場合は、50%もの人が一番太りそうなものを選びました。
おそらく、ヘルシーなものは今度選べばいいやと思って、フライドポテトを注文したのでしょう。
このことは、私たちが後で行うはずに選択について考えるときに犯しがちな、根本的な間違いを示しています。
私たちは、明日は今日と違うせんたくができるにちがいないと思いがちです。
しかし、そうはいかないのです。
今日はやっぱりタバコを吸うけれど、明日からはきっぱりとやめよう。
今日はジムをさぼるけれど、明日は絶対に行こう。
クリスマスのプレゼントを奮発するけれど、むこう3か月はいっさい買い物をしない。
そのように楽観的に考えて、今日は楽しんでもいいやと思うわけです。
すぐに挽回する機会がある場合は、なおさらです。
マイクロスコープ:「あとで取り返せる」と思っていませんか?
意志力のチャレンジに取り組みながら、それに関する決断をするとき、
「あとで取り返せばいい」
という思いが頭をよぎることはありませんか?
「今日はだめでも、明日挽回すれば大丈夫」
と自分に言い聞かせることはありますか?その場合、今日の自己コントロールにはどんな影響が表れるでしょうか?
ツケを翌日に回した場合、はたしてほんとうに挽回しているのか、自分の行動を観察してみましょう。
自分でやるといったことを、ちゃんとやったでしょうか?
それともまた、
「今日は楽しんじゃうけど、あしたこそちゃんとやろう」
の繰り返しだったでしょうか?
人には、「明日はもっとできる」と考える習性がある
私たちは先のことを楽観視してしまうせいで、やるべきことがあっても後でやろうと思うだけでなく、後になれば簡単にできると思いがちです。
心理学者らの研究によって、私たちは今日よりも後の方が自由な時間があるはずだという、まちがった予想をすることがわかりました。
このような勘違いを明らかにしたのは、マーケティング学のふたりの教授、ウィスコンシン大学のロビン・タナーとデューク大学のカート・カールソンです。
彼らはエクササイズの器具を購入した消費者が、その器具をどのくらいの頻度で利用するかという質問に対し、実際とはだいぶ異なる予想を立てることに興味を持ちました。
じつに90%の器具は、やがて地下室でほこりをかぶる運命にあったのです。
バーベルや腹筋マシーンを買った人たちが、自分はそれをどれくらい利用するだろうかと想像したとき、どんなふうに考えていたのか、教授たちは知りたくなりました。
教授たちはあるグループに質問しました。
「来月は1週間に何回くらいエクササイズしようと思いますか?」
別のグループには、同じ質問に重要な前置きを付けました。
「理想的には、来月は1週間に何回くらいエクササイズしようと思いますか?」
ところが、2つのグループの回答に差異は認められませんでした。
参加者たちは「実際的に考えて答えてください」と言われた場合ですら、ことごとく理想的な予想によって回答していました。
私たちは先のことを考えるとき、きっといまと同じように雑用に追われて忙しいだろうとは思いません。
そのため、今日やりたくなくても、後になればきっと時間も余力もあると考えがちです。
このような心理的な傾向は揺るがしがたいほど。
実験では、参加者にもっと現実的な予想を立ててもらいたいと思い、何名かの参加者にはわざわざ「理想的な予想ではなくて、自分自身の行動をできるだけ現実的に考えて予想してください」と前もって指示を与えました。
ところが、そのような指示を受けた人たちの回答はさらに楽観的で、最も多い回数を予想したのです。
そこで教授らは、この人たちに現実を把握させるべく、2週間後、実際にエクササイズを行った回数を研究室で報告してもらうことにしました。
すると、報告された実際の回数は、やはり予想を下回っていました。
教授らは同じ参加者たちにふたたび質問しました。
「では、次の2週間で何回エクササイズをしようと思っているかを答えてください」。
すると驚いたことに、楽天家の皆さんは、1回目の予想をさらに上回る回数を答えました。
まるで、前回の予想はいたってまともだったのだといわんばかりに。
今回の”いつになくひどい”不本意な結果を挽回すべく、次回の回数をグンと増やしたかのようです。
1回目の結果を現実として受け止め、1回目の予想は非現実的な理想だったと認めるのではなく、この2週間の結果は例外だと決めつけたわけです。
意志力の実験:「明日も同じ行動をする」と考える
行動経済学者のハワード・ラクリンは、行動を変えることを明日に延ばすのを防ぐためのおもしろい仕掛けを提唱しています。
ある行動を変えたい場合、その行動自体を変えるのではなく、日によってばらつきが出ないように注意するのです。
ランクリンによれば、タバコを吸うなら「毎日同じ本数」を吸うよう喫煙者に指示すると、タバコの量を減らせと言われていないにもかかわらず、なぜか喫煙量が減っていくといいます。
ランク林の説明によれば、この方法が効果的なのは
「明日からちゃんとやればいいや」
という言い訳ができなくなります。
今日タバコを1本多く吸えば、毎日同じ本数という決まりなので、明日も1本多く、その次の日も、そのまた次の日も、1本多く吸い続けることになります。
そうなると、タバコの1服に重みを感じるようになり、ひいては1本のタバコが長い期間に体に及ぶ影響をいたずらに無視できなくなります。
今週は、このランクリンのアドバイスをあなたの意志力のチャレンジに生かしてみませんか?
日によって行動にばらつきが出ないようにするのです。
選択を行うたびに、それが将来にわたってずっと影響を及ぼすことを認識しましょう。
つまり、
「このチョコバー、食べちゃおうかな?」
ではなく、
「これから1年、午後になったらチョコバーを食べ続けることになるけど、それでもいいわけ?」。
あるいは、やるべきことをずっとやっていないなら、
「ずっとこうやって先延ばしにして、あとでツケがまわってきてもいいの?」
と自分に問いかけてみましょう。
ヘルシーメニューを見ると、ジャンクフードが確かに恋しくなります!
自分だけの恥ずかしい習性だと思っていましたが、みんなそうだったんですね。
サラダメニューが増えると、ビックマックがバカ売れするなんて、人の感情ってほんとうにコントロールできない・・・。
自分をよく観察してみたら、「あとで取り戻せる」という甘い考えが1日の中で何度も浮かんでいることもわかりました。
「明日も同じことをする」と考えると、けっこうストレスなしに悪い習慣をちょっとストップさせることができました。
寒い日が続いていますね。
明日は、休めますか?
暖かくして過ごしてくださいね。
あなたが今夜も良い夢をみられますように。
では、また。