著者は今でこそ時間術の本を書くまでになりましたが、昔は時間の使い方で、相当に苦労をしたそうです。
今から20年前、大学の医局でアルツハイマー病の病理研究をしていたころのこと。
昼は診察し、仕事が終わった5時から実験を開始。実験が終わるのは11時過ぎ、という毎日だったそうです。
実験で結果が出ると論文を発表するのですが、それはふつう「英語論文」を意味。
実験の待ち時間を使って論文を書こうとするのですが、疲れた時に書こうとしても1時間で5行、つまり2、3文しか書けなかったのです。
しかし、ある週末に他の病院に当直に行って(お金のない研修医は当たり前のことだそうで)、かなりゆったりとした時間を過ごした日のこと。
当直の後の朝、いつも通り英語論文に取り組みました。
しかし、ゆったり過ごした翌日の朝は、いつもの2、3倍に速さでおもしろいように英語の文章が頭に浮かんできたのです。
1時間で10行くらいのスピードで書き進められたのでした。
「文章と言うものは、身体も頭も疲れていない、集中力の高い午前中にしか書けないんだ」
著者は身をもって気づきました。
それ以降、英語の論文は当直日の「午前中」と決めた著者。
論文作業は猛烈に速くなりました。
そしてさらに、文章のクオリティまで上がりました。
結果、著者の初の英語論文は、病理学の分野では非常に権威がある一流雑誌「米国病理学雑誌」に掲載され、無事、博士号を取ることができました。
おもしろいほど集中する瞬間をあなたもも感じたことがあるのではないでしょうか?
あの瞬間をふだんの日に自在に使えたら、あなたはもっとプライベートに体力も気力も時間も使えますよね。
そして、仕事のクオリティも上げることができるのです。
今回のポイントは、
1.仕事効率の高い国の働き方
2.時間をどう使うかという戦略
3.脳のリズムで仕事をする
4.雑念排除法
です。
1.仕事効率の高い国の働き方
「労働生産性」という指標があります。
就業者1人あたりが働いて生み出す付加価値の割合で、簡単に言えば仕事効率です。
日本人は勤勉で優秀といわれますが、日本の労働生産性は世界的に見てどのような程度でしょうか?
実はOECD加盟国34か国中22位。
主要先進7か国では22年連続最下位です!
時間当たりの労働生産性は、日本の42.1に対してアメリカは68.3。
これは個人の生産性だけでなく、企業・組織としての生産性やイノベーションの進行とも関係するので一概には言えませんが、日本人は個人でも組織でも生産性が悪いのです。
それでも日本のGNPは世界第3位です。それは、すごいことです。
つまり、効率が悪い分、長時間労働でカバーしてきたのです!!
確かに、そうかもしれません~!
アメリカ人は5時に退社できるのに、日本人は2,3時間残業するのが当たり前という生産スタイルは、「労働生産性」の統計結果をそのまま反映しているのです。
著者はアメリカの研究室に3年働いた経験があります。
「アメリカ人は5時に帰る」と言われていましたが、半信半疑で渡米しました。
実際アメリカ人はほとんどの人が終業時間で帰るそうです。
しかし、実績はきちんとあげています。
きちんと帰って何をするかというと、「当然家族と食事をする!」と即答されたそうです。
家族や友達、恋人とのプライベートな時間を十分に楽しみながらも、仕事もきっちりとこなす。
人生を謳歌する時間の使い方を知っているのです。
しかし、やりかたさえマスターすれば、私たちもライフとワークを両立させた人生を手に入れることはできます。
それには、日本人ならではの時間の使い方の落とし穴に気づき、勤務時間にいかに使っていくかをちょっと工夫していく必要があります。
2.時間をどう使うかという戦略
脳のゴールデンタイムを活用して、時間効率は4倍になる
著者は夜にはまったく書けなかった「英語論文」は、午前中の時間を使うとおもしろいように順調に書けました。
それは人間の脳には「脳のゴールデンタイム」が存在するからです。
これは脳科学的なデータで存在がはっきりしています。
1日24時間の中で、集中の時間は均等に流れていません。
特に朝の1時間は4倍の価値があります。
しかし、その価値に気づいている人は、日本では非常に少ないのです。
日本人の多くが、朝をメールチェックや通勤時間に使ってしまう。
とてももったいないことです。
あなたも、朝やれば1時間で終えられる仕事が、夜とりかかると4時間もかかってしまう、なんてことの経験があるのではないでしょうか?
ワタシはしょっちゅうです。
ワタシはこれを読んで、朝の出勤時間をほんの20分早めたのですが、朝の20分は夜の2時間分はあると感じています。
集中力を高めるのはプロでも難しい
私たちが観るプロスポーツ選手のプレー。
最後の最後に緊張の糸が切れてしまい、逆転負け、というシーンがよくあります。
サッカーの「ドーハの悲劇」も、まさにそうでしたね。
つまり、メンタルを徹底的に鍛えている選手たちであっても、試合中最後まで途切れない集中力を持つことは、難しいのです。
書店に行けば、「集中力を高める本」がいっぱい出ていますが、実は簡単なものではありません。
仕事が終わってヘロヘロになって家に帰り着いても、そこからいきなり集中力を高めて、自分の勉強時間にあてる、というのは「ほぼ不可能」と言ってよいでしょう。
しかし、「集中力」を活用する、もっと簡単な方法があります。
それは、「集中力の高い時間に、集中力の必要な仕事をする」ということです。
集中力の高い時間、というのは
①起床後の2~3時間
②休憩した直後
③終業間際の時間帯
④締め切りの前日
など。
そうした「集中力が自然と高まる時間帯」い、「集中力の必要な仕事」をすればいいのです。
私たちの仕事にはよく見ると「集中が必要な仕事」と「集中がそんなに必要ない仕事」があります。
それを仕分けして、ジグソーパズルのように、それぞれ適切な時間帯に「当てはめる」のです。
集中力はリセットできる
緩急をつけて疲れる前に休む
先に「集中力を高めるのは難しい」とありましたが、実は高める方法というのはあります。
100の集中力を120にするのは難しいのですが、疲労によって低下して70になっている集中力を90に回復させるのは簡単です。
それは、適切なタイミングで「休息」「リフレッシュ」の時間を挟むことです。
仕事をして、休み、仕事をして、休む。
ポイントは疲れないうちに休むことです。
日本人は「頑張る」のが得意ですが、自主的に休むことが苦手です。
しかし、休みなく頑張るほどに、集中力は低下し、疲労は蓄積し、結果として仕事全体の効率は劇的に下がります。
疲れる前に休む。これがポイントです。
それによって集中力を回復できれば、「集中力×時間」である「集中時間」の面積を広げることができます。
集中力を高める特効薬は「睡眠」
100の集中力を120にするのは困難ですが、あなたの状態がもし50であれば、それを70に引き上げるのは簡単です。
その最も簡単な方法が「睡眠」です。
忙しい人に限って、睡眠時間が短くなる傾向があります。
しかし、仕事効率を下げるだけでなく、健康も害する命を削る行為なので、絶対やるべきではありません。
睡眠時間を削ると、ガンのリスクは6倍、脳卒中は4倍、心筋梗塞は3倍、高血圧は2倍、糖尿病は3倍以上へと跳ね上がります。
日本人男性を対象とした研究で、睡眠時間が6時間以下の人は、7~8時間の人と比べて、死亡率が2.4倍高くなるという報告もあります。
また、睡眠時間が6時間を切ると、翌日の集中力が著しく低下します。
翌日の集中力が低下すれば、「集中力×時間」が小さくなりますから、仕事量が激減します。
1時間睡眠を削って1時間仕事時間を増やしても、翌日の集中力が20%低下すれば、20%多く働かないと、同じ仕事をこなせなくなります。
つまり、8時間労働ならば、その20%の1.6時間多く働かないと、仕事量の収支がマイナスになります。
今、あなたがもし睡眠不足になっているならば、睡眠時間を7時間以上にすることで、大幅な集中力アップと時間創出が期待できるのです。
3.脳のリズムで仕事をする
15・45・90の法則
以前著者は、同時通訳をしている人と会うことができました。
ダライ・ラマ14世の同時通訳も務めた有名な方でした。
彼女によると、
「同時通訳と言うのは、非常に高い集中力を要するので、せいぜい10分。どんなに頑張っても15分が限界です」
と言っていたそうです。
会議の同時通訳は3人1組で、15分ごとのローテーションで回すことが多いそうです。
クラッシック音楽でも、15分から20分ごとに楽章が分かれていて、小臼歯が入る構成で作られているものがほとんどです。
かなり深い集中が持続できる濃い集中時間は「15分」程度であって、20分を超えない。
つまり「15分」が1単位と考えることができます。
たとえば、映画「007」シリーズには必ずボンドガールが登場しますね。
アクションシーンが売りのシリーズですから、そんなお色気シーンは無くして、ひたすらアクションをすればいいのに、と思ったりします。
しかし、15分のアクションがあると、ちょっとした一休みのシーンが入ります。
それは、人間の「集中力が持続する時間」にセオリーがあるからです。
先ほどのサッカ¥の「ドーハの悲劇」が語るように、人間はある程度の集中は持続可能でも、「ピークの集中力」、つまり非常に高い集中力はそんなに持続しません。
それについて調べてみると、「15分」「45分」「90分」という単位時間だそうです。
小学校の授業は45分。
そのなかに、笑いや弛緩を数回いれて15分を3つの単位でいれています。
つまり、子どもが集中できる単位が45分と考えられます。
15分を3セットとして、集中力のリズムをつくっているのです。
同様にパソコン仕事などは、40~50分に1回休憩をいれた方が効率がいいと言われています。
45分を2つセットにしたのが、サッカーの試合などの90分。
よくテレビで2時間ドラマなどがありますが、コマーシャルを抜いた中身は、おおよそ90分。
大人が集中できる時間の限界が90分と考えられます。
大学の講義などが90分です。
人間の覚醒と眠気のリズムにこの90分があります。
起きている時間の人間の脳は、覚醒する90分と眠気の強い20分が交互に訪れるサイクルが存在しているという「ウルトラディアンリズム」があることが分かっています。
(しかし、このリズムには個人差があり、70~110分の幅があります)
胃の蠕動運動も90分のリズムがあることが知られています。
大事なのは、自分のリズムに気づくことです。
そして、緊張の間に10~15分の休憩をはさむこと。
そうしたことで、90分程度の集中時間をあなたも確保していくことができるのです。
4.雑念排除法
集中力の敵は、「雑念」です。
あなたの集中力を高めて仕事を時間内に効率的にこなすためには、「雑念の排除」が必須です。
雑念は主に4つの原因によって生じます。
それは「物による雑念」「思考の雑念」「人による雑念」「通信の雑念」です。
雑念排除①物による雑念
机の上に何も載っていないキレイな状態と、机の上に書類や読みかけの本や文房具類がらかっている状態では、どちらの方が捗りますか?
耳の痛い話ですが、わかりきったことです・・・。
物の整理は頭の整理
大事なのは、仕事効率を高めることです。
書類や本や文具が瞬間的に取り出せることが大事です。
整理整頓で重要なのは、それぞれの物ごとに「置く場所を決めておく」ことです。
パソコンのデスクトップもキレイであることが大事です。
10秒以内にファイルが開けられるようでないと、あなたの集中力をそいでいる可能性が高いのです。
分類されたファイルに件名を入れるのは、10~15秒です。
がんばりましょう。
雑念排除②思考による雑念
仕事をしていると、様々な雑念が浮かんできます。
「そういえば、今日中に出さないといけない書類があった」
「そういえば、会議室の予約をしないと」
「Aさんにメールの返信をしていない!」
「お腹が減ってきた。ランチはラーメンにしようかな」
結果として集中力が妨げられるだけでなく、仕事が中断してしまいます。
たった1秒の雑念が、15分のロスに連鎖していきます。
気になることはすべて書く
自然と頭に浮かぶ雑念を簡単に消すことができます。
この雑念たちのほとんどは「予定」「スケジュール」「やるべきこと」「ToDo」です。
できればデジタルではなく「紙」に書いて、目の前や机の横など、すぐ目に見えるところに置いておくとよいのです。
気になったら1秒で見ることができます。
「気になれば見ればいい」と思うと、不思議とそれ以上の雑念が湧かなくなります。
雑念を書く。そして、書いたら忘れる。
これを習慣にすると、本当に雑念が湧かなくなり、集中力が高いまま仕事ができるようになります。
切り替え力を高める脳トレー―ニング
紙に書いたくらいでは雑念が消えない、頭の中でループする、という時もあると思います。
これは、要注意な状態です。
なぜなら、雑念が振り払えないのは、前頭葉が疲れている証拠だからです。
脳内で「切り替える」作業を行うのが前頭葉です。
特にセロトニンという脳内物質が、「切り替え」と深く関係しています。
たとえば、交通事故などで前頭葉を損傷した患者は、同じ言葉を繰り返し言い続けるという症状が出るそうです。
あるいは、同じ文字を書き続ける、という症状が出ることがあるそうです。
脳の切り替えができない、同じ思考がループする、という状態は、脳に疲労やストレスがたまっている証拠。
そんなときは、セロトニンを活性化することが必要です。
具体的な方法は、「日光を浴びる」「リズム運動をする」「咀嚼する」です。
もちろん仕事のしすぎであればそれを減らし、睡眠をきちんととる。
ストレス管理は大前提です。
セロトニンを活性化するには、「休息」「睡眠」「朝散歩」です。
雑念排除法③人による雑念
集中力が高まっているときに、電話や声掛けをされてうんざりしたことがあるのではないでしょうか?
一度集中力が途切れると、その高まった状態に戻るのに15分かかることが分かっています。
小説家が温泉宿に缶詰めになって小説を書き上げる、という話を聞いたことがあると思います。
私たちがふつうにそうした「缶詰め」になるのは、贅沢でなかなかできないことではあります。
しかし、著者などはお気に入りの執筆場所は「行きつけのカフェ」。
ビジネスマンの中には、会議室が空いているときに、資料とパソコンを持って会議室にこもる、という人も。
とりあえず、カフェ仕事は捗りますよね。
雑念排除法④通信による雑念
スマホの通知音は、雑念の温床ですね。
Wi-Fiを切ると集中しやすくなります。
通知音も、不要なモノはガンガン切っていきましょう。
著者はふだん携帯電話を持っていますが、カバンの中にあって、話し合いの最中の邪魔にならないようにしているそうです。
LINEやFacebookのアラート音も、脳は無意識に情報を処理するので、集中力をリセットさせてしまいます。
この章を読んで、とりあえずスマホの不要な通知音がある度にどんどん「オフ」に設定していきました。
10個以上切ったあたりから、このブログを書いていて、ものすごく快適になりました。
通知音のオフは、素晴らしい機能ですね。
今週もお疲れさまでした。
来週は、ワタシももう少し集中時間を持って、早く帰ります!
あなたの時間も、さらに充実したものになりますように。
では、また。