人を癒す一番の方法は、話を聞くことだと思っています。
胸のつかえをうまくほぐしてあげられたら、と思うことがあります。
しかし、つい話の途中でツッコミを入れたくなる展開や、うまく聞けなくて相手(主に娘)が「ねぇ、聞いてるっ?」となることも。
運転しながら話を聞くことも多いせいか、そもそもいい加減な自分の性格のせいか。
プロの心理士さんの方法を知って、もっと上手に話を聞くことができるようになりたい、と思って買った本です。
著者は臨床心理士で、日々人の話を聞くことが仕事です。
「沈黙は金、雄弁は銀」「言多きは品少なし」「1度語る前に2度聞け」など、しゃべることより、聞くことの大事さを物語ることわざはたくさんありますね。
わたしたちは常々真実の人間関係をもちたいと思っています。
それには、まず相手の話を聞くことが必要になります。
「聞く」ことは漠然と耳に入れることではなく、理解すること。
音や言葉を聞くだけなら簡単ですが、相手を理解することはむずかしいことなのだと著者は言います。
対人恐怖症でないかぎり、案外楽にできることではありますが、聞くことは苦行になることさえあるのだとか。
聞き上手は話さない
ほとんどの人は、聞くより話す方が好きです。
話すのが苦手という人は、なおのことです。
そういう方ほど、リラックスして話ができる、聞き上手の人にめぐりあえると、とどまることなく話をするものだそうです。
しかし、聞いてというのはたとえ相手が好きな人であったとしても、一方的に何時間も続くと、やはりこちらも話したくなるもの。
テレビやラジオを聴いているのと違い、相手の気持ちを理解しなければならないという負担が、利き手にかかるからです。
聞き上手になるには、相手の気持ちを負担に感じず、こちらから話したくならないような訓練が必要なのだとか。
本書にあるいずれのコツにも訓練が必要なのだそうです。
落語家やアナウンサーが話すプロとしてお金をもらうように、同様に話を聞くプロとして、聞くだけでお金をもらえることをイメージしてみましょう。
話を聞くプロは、ある意味で話をするプロと同等かそれ以上に訓練を必要としています。
まずは、「聞き上手は話さない」を実践してみましょう。
今日誰かと会う予定だったら、その人をターゲットに練習してみましょう。
あなたが聞き上手になりたいのなら、あなたの方からは話さないこと。
ターゲットにした人の前でゆったりと構えていること。
すると、不思議なことに必ず相手から話を切り出します。
あなたは、「素直」にそれを聞けばいいだけです。
「素直」に、ということを忘れないでください。
そうすると会話のパターンは、相手が話し、あなたはそれを聞き入れる、という相手主導の会話パターンになります。
とにかく、まずは相づち以外はしゃべらないこと。
意見を聞かれたら、手短に、文章なら1行以内で答えます。
答えがすぐに見つからないときは、「そうですね」と言って、考えていればいいだけです。
たぶん30秒以内に相手は自分の考えを述べたり、あなたにこのようなことを言ってほしいという答えを自ら定時してくれたりするもの。
30秒というのは、実際やるとなかなか長い時間です。
プロになると、15分以上の沈黙があっても、話し手に「自分は長い間沈黙していた」と思わせないテクニックがあるそうです。
ここで大事なのは「素直」に聞くこと。
反論したくても、話をよく聞いてあげると、相手の意見も自然と穏やかになり、反論しなくてもすむことが多いのだそう。
これが聞き上手の醍醐味です。
真剣に聞けるのは、1時間以内
話を集中して聞くと、ずいぶん疲れます。
利き手は話しての何倍も疲れるのがふつうです。
ですから、疲れているときに、人の話を聞かねばならないときほど大儀なことはありません。
プロのカウンセラーが相談者の話を聞く時間は、1回50分から1時間です。
心のなかに関しての話は、聞く方も話す方も、他人同士ならこれが限界です。
だから、カウンセリングは、週1回に1度、約1時間で行われるのが一般的。
相談者の問題によっては、これを1年、2年とづつけるのだそうです。
ずいぶん長くかかるように思えますが、カウンセリングを受けても人間はそんなに早くは変われないからだそうです。
友達同士で、徹夜で楽しく話をした経験がある人もたくさんいるでしょう。
徹夜しても疲れないのは、友達同士の会話だと、話し手と利き手が同じレベルに立ち、しかも聞き手と話し手の立場を交代しているからです。
いくら親しい人との会話でも、一方的に聞き手にならなければならないのは疲れるもの。
職場でも家庭でも、このようなことはけっこう多いのです。
上司と飲んだ時には、家に帰ってからそれを吐き、あらためて飲み直さないと眠れないという人もいたそうです。
これは上司の、酒ではなくて話を飲み込めなかったから。
飲み込めない話をたくさん聞かされると、本当に下痢をする人もいるそうです。
話を自分なりに消化できなかったからだそうです。
母親から、祖母や父親の愚痴をきかされ続けた子供には、心理的な症状が出ることが知られているそうです。
このような心理的症状を出す人の多くは、家族の葛藤の調整役をしているのです。
消化しきれない話や納得できない話を聞かされると、聞いた人が苦しむのです。
プロのカウンセラーにしても、自分の身内の話を聞くのが、ある意味でいちばんやっかいだそうです。
相手が相談者なら、1時間枠ですが、身内となると時間は無制限。
身内が無制限に話すときは、そうとうの心の余裕がないと、プロでも聞くことができないそうです。
著者は、家族の話を聞くときは、すべての仕事を中断して、全エネルギーを注ぐそうです。
しかし、若いころはそれができなかったそうです。
学生時代の合宿などでは、まさに技術的なことではなく、心が一丸となることを目的にしています。
仲間を知ることと、自分を出すことで、集団の輪と自己を鍛えます。
社会人になっても、新入社員や管理職研修などで、このような企画が行われます。
ここでは心のトレーニングも行われます。
そのため「エンカウンター・グループ」を組むことがアメリカを中心に世界各地で行われています。
ここで重要なのは、専門の利き手がついていることで、この聞き手の人格が未熟だったり短絡的だったり、あまりにカリスマ的だったりすると、参加者のメンバーに自殺者や病気になる人が出たり、カルトのように抜けられなくなったりするので、要注意です。
これは、聞き手が空いての心に入り込んだからで、無防備になった話し手は被暗示性が強くなり、洗脳とかマインドコントロールとか呼ばれる状態になりやすいのです。
なんだかあり得ない気がしますが、私たちも心を打ち明け、それを心から聞いてくれる人には、弱くなってしまいますよね。
相手中心で、集中して話を聞くと、話し手は癒されますが、同時に無防備な状態になってしまうのです。
つまり相手の信頼を得、真剣に集中して聞けるような聞き上手になりと、相手の心をつかみすぎてしまう危険をはらんでいます。
でも、日常的な会話の中の聞き上手には、そこまでの心配はありません。
本書は一般的な聞き上手さんをめざしています。
でも、卓越した聞き上手には、そうした危険もはらんでいるものなのです。
相づちを打つ
話がはずむためには、聞き上手が肯定的に話を受け取ることが大切です。
自分の話を否定的に聞かれていることが分かると、話し手は話す気がなくなります。
カウンセラーの姿勢として重要なことは、相手の話を肯定的にとらえるということです。
専門用語で「受容」と言われています。
これは、なんでも賛成する、ということではありません。
相手の言ったことを肯定的にとらえるということは、相手の言ったことは相手のこととしてとらえるということ。
あたり前ですが、聞き手とは関係なく、単に相手がそう思っているだけのことなのです。
相手が「ジャムパンが好きだ」といったとしましょう。
聞き手のあなたは、「この人はジャムパンが好きなんだ」と聞きます。
あなたがジャムパンを好きでなくても、相手がジャムパンを好きだということを肯定することができますね。
これが好きな野球チームのことをけなされたりすると、どこかで態度に出てしまうもの。
しかし、プロのカウンセラーは、相手から直接非難されても、「そうだね」と相づちが打てるように鍛えられているそうです。
若いころ著者はある相談者から、
「先生のような仕事は、亡者のかすりを取って生活しているようなものですね」
と言われました。
若かったこともあり、一瞬「もうちょっとましなことをしているのでは」という自負心がよぎりました。
でも次の俊寛には、たしかに言われてみればそうかもしれない、少なくとも、相手はそう思っている、と考えなおしました。
「本当にそうかもしれませんね」
と著者は言いました。
以後、その相談者との面談はスムーズになったそうです。
著者に対してなぜそういう態度をとるのか、その理由の一端を著者にわかってもらえたと、その人が思ったからだそうです。
プロの聞き手であるカウンセラーには、自他の区別が要求されるそうです。
相手の話を聞くときには自分の意見は出さず、相手の気持ちを肯定しながら聞いているのです。
そして、それができているかどうかをたしかめるのが、相づちです。
相手の話が聞けなくなってくると、相づちが出なくなります。
相づちの代わりに「しかし」とか「けれど」が出てきます。
これは、プロの聞き手としては失格。
危険場面です。
誰でも自分の相づちを注意深くチェックしているだけで、聞き上手になります。
プロの聞き手は、相づちをふつうのひとよりも頻繁に使うのです。
相づちのレパートリーを増やす
プロのカウンセラーは、酒類豊かに、しかも一人ひとりが工夫した相づちを持っているそうです。
「なるほど」「なあるほど」「なるほどなるほど」「なるほどね」「なるほどねえ」「なるほどなあ」と、「なるほど」だけでも幾種類にも使い分けます。
プロの指物師がノミだけで何種類ももっているようにです。
自分で使い慣れている相づちがあれば、それの種類を増やすことから著者はすすめています。
「ハイ」や「エエ」だけならば、文化包丁1本ですべての素材を切っているようなもの。
「ハイ」「ハイ、そうですか」「ハイ・ハイ」「ハアイ」「ハア~」「ハイ?」・・・どうでしょう?増やせそうですよね。
次は「そう」も増やしてみましょう。
「そう」「そうそう」「そうよそう」。
「そう」は、相手があなたを肯定してほしいと思ったときに、とても有効な相づちです。
肯定的な相づちが増えたら、否定的なニュアンスを加味したものにも挑戦しましょう。
否定的ニュアンスになる微妙さを感じてほしいのです。
この種の相づちの一番は「フン」です。
語尾を上げると、日本では相手をバカにして見えるのですが、「ふんふん」と落ち着いた調子で相づちを入れるとよく聞いているサインになります。
とにかく、聞き上手になりたいんです。
こわがられてばっかりだから。
その意気込みがありすぎて、語りたがってしまうので、相づちをがんばります。
う~ん、まだ違う。
まずは、ゆったりと。
そこからだ~
では、また。