照れくささをぐくりと飲み込んで、一歩だけ前に出る。
すると、世界は変わります。
一線を越えたコミュニケーションが芽生えた日、人はあたたかく過ごせるもの。
心の中にふわりとやさしさが生まれ、それが人から人へ伝わっていったり。
この喜びは、ほんのすこしの勇気で手に入るものなのです。
マカロン・コミュニケーション
おいしいパン屋さんで軽食を取ろうとした著者。
赤いひさしが目印のお店は、香ばしいフランスパン、甘いデニッシュ、バターたっぷりのクロワッサンの香りでいっぱいです。
カフェになっている二階席でパンとコーヒーを注文すると、6、7種類ものジャムとはちみつが運ばれてきました。
お店の女の子がこう言います。
「ジャムは好きなだけお召し上がりください。
ただし、絶対にジャムのスプーンを直接パンにつけないでくださいね」
衛生面を考慮し、いったんお皿に取ってからパンにつけてほしいという理屈はわかるのですが、やってみると難しい。
パンに添えられたお皿は1枚だけですが、ラズベリー、ブルーベリー、クランベリーといくつものジャムがあれば、全部試したくなります。
イチジクもマーマレードもリンゴも、れんげのはちみつも見逃せません。
そうしてとっていくと、お皿の上で微妙な味が混じり合います。
悪戦苦闘していると、
「あっ、ごめんなさい。私が最初からお皿を多めに持ってくればよかったですね」
と彼女は数枚の皿を運んできて、にこっとしました。
親切にほっとした著者は、彼女が著者の横に無造作に置いてあった、偶然にも「パン特集」を見ていることに気づき、彼女がパン好きで、焼きたての香りが大好きであるといった会話が生まれました。
そうはいっても、ほんの2言3言。
これだけでは、単なるお客と店員。
さらに一歩踏み出すと人間関係になる。
そう知っていた著者は勇気を出しました。
荷物を席に残したままいったん下の階に降り、会社で食べる自分用のサンドイッチと一緒にマカロンを買って戻ると、彼女にプレゼントしました。
「今日は親切にしてくれて、ありがとう。よかったら食べてください」
別に下心もないし、なにしろプレゼントはたった200円のマカロン。
しかも彼女が働くお店です。
ただ、誰かに対して「ありがとう」という気持ちを抱いたとき、感謝の気持ちをきちんと表し、相手にはっきり伝えたい・・・いつもそう思っているのです。
日常生活や旅先で、しばしば見知らぬ人に同じことをするそうです。
プレゼントではなくても、自分の感謝や行為を確実に伝えるすべを探し、勇気を出して実行するのです。
「そんなのナンパみたいじゃないか」とからかわれることもあります。
ささやかなプレゼントのつもりが、驚かれたり、嫌がられることすらあります。
人はみな違うのですから、全員が全員、好意的に受け取ってくれないのは当たり前でしょう。
でも、半分の人には拒絶されても、半分の人には喜んでもらえます。
世界中、いたるところに「あのときは、ありがとう」と互いに言い合える人を作る・・・なんともすてきなことではないでしょうか。
これも今日1日を豊かに過ごすための「冒険」だと、著者は信じています。
こんな勇気のふるいかたを、あなたも試してみませんか?
わからない箱
わからないことを、わからないという。
これは間違いなく、生きるための最良の知恵です。
著者は、『暮らしの手帳』編集部の自分の引き出しに、箱を一つおいています。
本や新聞を読んでいる時、また人と話している時、わからないことは1日にいくつも出てきます。
その場でたずねて解決するものは相手に聞いてしまいますが、仕事や話の流れで、そうもいかないケースもあります。
大勢の会議や、みんなの話の流れを止めることになる場合、控えた方がいい場面もあります。
そんなとき、著者はわからないことを紙に書き、ピリッとちぎって机の中に置いた箱に入れます。
読み方がわからない感じも、新聞を読んでいて「みなし弁済ってなんだろう?」という疑問がわいたときも、その言葉をメモした紙を箱に入れます。
そして、1か月に1度くらい、仕事がひと段落したときなどに、おもむろに箱を開けます。
1日1枚でも、30枚たまることになりますから、けっこうなかさです。
「わからない箱」は、自分が何を知らないのか、苦手なジャンルを教えてくれます。
たとえば著者の場合、
「ああ、ずいぶんたくさん経済の用語が入っているな。
この分野が弱いんだな」
と自覚することができます。
当然ながらスタートはこれからで、ネットで調べたり本で読んだりします。
「なんだ、みなし弁済って意外と簡単なことなんだ」
と単純に腑に落ちることもあれば、さらなる疑問が生まれ、もっと学びたくなったり。
本当の意味での独学がスタートするかも。
子どもの宿題ではないんで、すべてを解決する必要はないし、開けるのは1年に1度でも構いません。
いずれにせよ、わからない箱には、新しい自分のタネがつまっています。
ちょっと世界が広がったらいいなぁ。
アラフォーを超えて強みになったのは、人に話しかけやすくなったこと。
さらに上の世代の人たちは、レジで並びながらでも、知らない人とレシピ交換してますからね!
あの人たちには勝てないけれど、ちょっとした感謝を伝えてもらえるって、受け取る方も嬉しいですよね。
「わからない箱」。
忘れん坊の私には、ちょっとトライしてみたいことだったので、勉強しました。
寒い季節、自分のなかにこっそりちっちゃなタネを撒いてみるのも、面白いかもしれません。
すてきな夢が見られますように。
では、また。