人生100年時代、と聞くと、「ずいぶん長く生きられるんだな」と楽しみな部分と、「もっと節制しなければ」と思ってしまう部分があります。
そんな中で、臨床で終末期の精神医療に長く携わってきた著者が、「世界一長生き」と言われる日本人の死の手前の時期をたくさん看取るなかで、気づいたことがほかの書籍とはまったく違う視点で書かれているのが本書です。
やりたいことを、やろう。
健康のためとか言って、がまんするのは、ちょっと違うかもしれない。
そんな視点を得ることができました。
男性は9年間、女性は12年間。
この数字は、病気や認知症で寝たきりになったり、誰かに介助されながら生きる平均期間を表したものです。
誰でも自由に、自立して生活をしたい、と思っています。
しかし、これが世界一長寿の国日本の現状だそうです。
心身ともに自立して健康でいられる年齢を「健康寿命」と言います。
男性は72.68歳。女性は75.38歳。(令和元年調べ)
平均寿命は、男性が81.64歳。女性が84.74歳。
これは、何歳まで生きるか、という平均寿命です。
ずばり何歳で死ぬか、ということです。
100歳を超える人が8万6000人いる現在ですが、介助を受けてベッドで過ごす100歳もいれば、元気で動ける100歳もいます。
あるいは、ぼけてしまい、自分がだれかわからない、ということも考えられます。
著者は本書を書いている当時61歳の医師。
高齢者専門の精神科医として35年間、臨床現場で過ごしてきました。
当然ですgあ、人はそれぞれ年齢も体型も違います。
性格や考え方も違う。
死活環境や家族構成も違う。
仕事も、かかった病気も違う。
つまり、一人一人は全く違う人生を歩む、まったくの別人です。
しかし、すべての人に共通するのは、全員がやがて死んでいく、と言うことです。
ですが、死に至るには2つの道があるそうです。
一つは、幸せな道。
最期に「いい人生だった。ありがとう」と満足しながら死んでいける道です。
もう一つは、不満足な道です。
「ああ、あのときに」とか、「なんでこんなことに」と後悔しながら死んでいく道です。
老いを受け入れ、できることを大事にする
80歳からの人生は、70代とはまるで違ってきます。
昨日までできていたことが今日はできない、という事態に何度も遭遇します。
体の不調も多くなります。
ガン、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎など、命にかかわる病気も発症しやすくなります。
「認知症かな」と自信を無くすこともあるでしょう。
配偶者や身近な人の死を経験し、孤独や絶望を感じることもあるかもしれません。
本書では、この老いを受け入れ、できることを大事にすることが繰り返し述べられています。
「幸せ」とは本人の主観によるものです。
つまり、自分がどう考えるかによって決まってくるのです。
たとえば自分の老いを嘆き、「あれができなくなった」「これができなくなった」「これしか残っていない」と、「ないない」を数えながら生きる人がいます。
かたや、自分の老いを受け入れつつ、「まだこれはできる」「あれも残っている」と「あるある」を大切にしながら生きる人がいます。
どちらの人が幸せなのでしょうか?
答えは本人にしかわかりません。
しかし著者の臨床経験では、「あるある」で生きる人の方が幸せそうに見えました。
家族や周囲の人とも、楽しそうにしている人が多かったのです。
80歳を過ぎたらガンがある。それに気づかない人も多い
著者が長年勤めていた浴風会病院は高齢者専門の病院で、毎年100人程度のご遺体を解剖させてもらっていました。
すると、本人が自覚していないにもかかわらず、体の中に大きな病巣があり、それ以外の病気が原因で亡くなっていた、という例が少なくないそうです。
つまり、最後まで気づかない病気もある、ということです。
ガンもその1つです。
85歳を過ぎた方のご遺体を解剖すると、ほとんどの人にガンが見つかるそうです。
高齢者になれば、誰の体にもガンはある、ということです。
世間の常識では、「ガンは死に至る病で、早期発見・早期治療をすべき」とされています。
でも、それだけとは限らない、生活に支障のないガンもあるのだと教えられているのです。
特に年を取るとガンの進行が遅くなるため、放っておいても大丈夫なケースは意外と多くあるのだとか。
この事実は、かなり安心材料なのではないでしょうか?
ここから著者が導き出している選択は何か?
それは、80歳を過ぎたら我慢をしない、という生き方です。
「ガンにならないために」と食べたいものを我慢したり、好きなお酒やたばこを控えたりする傾向がありますが、高齢者はすでにガンを持っていることが多い。
だったら、ガンにならないための我慢は意味がなくなります。
好きなものを食べたり飲んだりしながら生き延びる方が、むしろストレスがなくていい、楽しく生きられるのではないか、というのが著者が本書で述べていることです。
実はエビデンスがある話として、我慢を強いられているストレスフルな生活よりも、好きなことをして気楽に生きる生活の方が免疫力が高まることが分かっています。
これががんの進行を遅くすることもわかっています。
認知症は必ずやってくる。ならば、いまのうちにしたいことをする
人が認知症になる理由は、シンプルに年を取るからです。
ただし、高齢になってから発症する認知症の多くは、とてもゆっくりと進行する病気。
実は発祥の20年前から少しずつ進行しているのです。
ほとんどの人は気づきません。
そして、発症後も進行は続き、止めることはできません。
ご遺体の解剖をしていて、わかったことがありました。
ガンと同じように、85歳をすぎた人のほぼ全員の脳に、異変が見られたのです。
アルツハイマー型の変性のような病変えす。
つまり、認知症は病気というより「老化現象」に近いものであり、年を取ると誰にでも起こる症状、というわけです。
筋力が衰えて運動ができなくなったり、肌にシワができたり、白髪になったりするのと同じことなのです。
そうした事実から導かれる正解は、やはりこれしかありません。
いまのうちに、どんどん好きなことをして、楽しく生きること。
代り映えのしないつまらない生活をしていると、脳の働きは鈍くなります。
また、ストレスの多い生活によっても脳はダメージを受けます。
反対に、新しいことや好きなことをすると、脳は刺激を受け、活性化します。
これによって、認知症を遅らせることはほぼ可能だと考えられます。
「人生100年時代」という言葉が80歳の壁を高くしている
80歳といえば、かつては「人生のゴール」という印象でした。
それが昨今「人生100年」と言われ、いきなりゴールが20年も先になってしまった。
長寿になったのは良いのですが、高齢者が「長生きしなければならない」という呪縛にかかってしまっていることを著者は危ぶんでいます。
たとえば、
・本当は食べたいのに、健康に悪いからと、我慢してしまう
・動くのが辛いのに、無理して運動する
・好きなたばこや酒を、健康に悪いからと控える
・やりたいことがあるのに、「もう年だから」と我慢する
・効いている実感がないのに、「長生きのため」と薬を飲み続ける
いずれも80歳を超えた高齢者なら、しなくていい我慢や無理です。
もっと言えば、本当はしてはいけない我慢や無理なのです。
たしかに60代くらいまでなら、それは効果のあることでした。
しかし高齢者になってまで我慢する必要はないのです。
節制、運動、心配、気遣い・・・
快くできるなら別ですが、我慢や無理をしながらでは、間違いなく心と体に負担になり、積み重なると寿命を確実に縮めます。
ここまで頑張ってきたのですから、高齢者はもっと自分を喜ばせていいのです。
本書を読んで、ちょっと、いやかなり元気がでました。
年齢を重ねることが怖くなくなる1冊です。
今週もお疲れさまでした。
ゆっくり休んでくださいね。
では、また。