昨日は、私たちのなかに2つの自己が存在することを勉強しました。
一方の自己は衝動のままに目の前の欲求を満たそうとします。
もう一方の自己は、衝動を抑えて欲求の充足を先に延ばし、長期的な目標に従って行動します。
そこで、衝動的な方の自分にあだ名をつけてみることを提案しました。
そういう自分になりかけたとき、はっと気づいたり、賢い方の自分を呼び覚ますのに役立ちます。
本能を目標達成に利用する
こういうと、自己コントロールシステムがとんでもなく優秀な「自己」で、原始的な方は進化に取り残された遺物のようです。
しかし、本来サバイバルのために働くシステムが、現代ありがたくない存在だとしても、完全にそれをなくすべきではありません。
脳への損傷でそのような本能を失った人々に関する医学的研究がそれを示しています。
人間の持つ原始的な恐れや欲望が、健康や幸福、さらに自己コントロールにおいて、重要です。
ある若い女性が発作を止めるための脳の手術の際に、中脳の一部を損傷してしまいました。
その結果、どうやらその女性は「恐怖」や「嫌悪」を感じなくなってしまったようですた。
つまり、自制にとって最も重要な2つの本能を失ってしまったのです。
すると彼女は気分が悪くなるまでドカ食いしたり、あろうことか、父親や兄弟にたびたび性的な誘いをかけたりするようになってしまいました。
こうなっては、とても自己コントロールどころではありません!
私たちは、欲望を失えば憂鬱になり、恐怖を感じなくなれば危険から身を守れなくなります。
神経経済学者たち(私たちが意思決定するとき、脳で何が起きるかを研究する科学者たち)は、自己コントロールシステムとサバイバル本能は、必ずしも相反するものではないことを発見しました。
ときには、この2つが協力し合って、私たちがよい決断をするために役立っているのです。
意志力を強化するためには、いかにも人間らしい本能を逆手にとって利用する必要があります。
最も原始的な本能も、快楽を求める欲望も、集団に属したいという思いも含め、すべてを目標達成のために使うのです。
第1のルール 「汝を知れ」
自己コントロールは人類ならではの素晴らしい能力ですが、人類の優れた能力はそれだけではありません。
人間には自己認識ー自分のしていることを認識し、それを行う理由を理解する能力ーも備わっています。
場合によっては行動を起こす前に自分が何をしそうか予測できるので、よく考えてから行動することも可能です。
自己認識なくしては、自己コントロールシステムなど使い物になりません。
意志力を要する決断を下すときは、自分自身でしっかりとそれを認識していなければならないからです。
さもなくば、脳はいつでも最もかんたんなことを選びます。
たとえば、タバコをやめたいと思っている女性がいたとします。
このひとはあず、自分がタバコを吸いたいと思う瞬間に気づき、どういうときに最も吸いたくなるのか(外で完封に吹かれると、ついライターを探してしまう、など)を知る必要があります。
そして、吸いたい気持ちに今日も負けてしまったら、たぶん明日もまた負ける可能性があります。
保険の授業でならっと通り、さまざまな恐ろしい病気が待ち受けているのがわかります。
そんな悲惨な運命を逃れるには「タバコを吸わない」という意識的な選択が必要です。
そうしたことを自分で認識できなければ、運命は目に見えています。
自己認識など、わかがないと思うかもしれませんが、心理学者なら知っている通り、私たちはほとんどの選択を無意識に行っており、なぜそうするのかという理由などろくに認識してもいなければ、どういう結果を招くかなど考えもしません。
それどころか、選択を行っている自覚すらないことがしょっちゅうです。
ある研究では、参加者に「食べ物に関する決断を1日に何回くらい行っていると思いますか?」と尋ねました。
あなたは何回くらいだと思いますか?
実験における回答は、平均で14回。
しかし、こんどは同じ人たちに実際に記録をとってもらったところ、結果は平均で227回にもなったのです。
食べ物に関する選択だけでこれほどの数です。
ですから、コントロールすべきことを認識すらしていなかったら、自己コントロールなどできるはずがありません。
現代社会は、ただでさえ気が散るものや刺激にあふれているから、まったく困ってしまいます。
スタンフォード大学経営学部教授のババ・シウ”は、「人は気が散っているときほど誘惑に負けやすい」という研究結果を発表しています。
誰かの電話番号を思い出そうとしながらデザートを選んでいる学生は、フルーツよりもチョコレートを選ぶ確率が50%も高くなります。
また、うわの空で買い物をしている人は、店頭販売にひっかかりやすく、買い物リストにはなかった品物をごっそり買い込んで帰宅するはめになります。
考え事で頭をいっぱいにしていると、長期的な目標は忘れてしまい、衝動的な選択をしてしまいます。
コーヒーショップの列に並びながら携帯メールを打っていたら?
いつのまにか、アイスコーヒーのかわりにモカ・ミルクシェイクを注文してしまったりしませんか。
意志力の実験:「選択した瞬間」を振り返る
自己コントロール力を高めるには、自己認識力を高める必要があります。
ですから、意志力のチャレンジに関する選択を行うときには、そのことをはっきり意識するのが大切です。
たとえば、「仕事帰りにジムに行くか行かないか」といった単純な選択の場合。
いったん帰宅しないで済むように、朝のうちに用意して家を出たでしょうか?(賢いですね!サボる言い訳をしたくなくなります!)
終業間際に長電話につかまって、おなかもペコペコ、このまま事務なんか行けない?(あーあ、夕食をとってからでは、なおのことジムには行かないでしょうね)
一日分でもいいので、その日に行った選択を振りかえってみてください。
1日の終わりに、「自分がいつ目標を達成するための選択、あるいは妨げてしまう選択をしたのか」を分析してみましょう。
そのように自分の選択を振り返って意識することで、いい加減な選択の数が減っていきます。
それにより、意志力は確実にアップします。
脳の灰白質を増強する
脳に前頭前皮質が備わって、人間がいろいろなことをできるようになるまでには、何百年という進化の歴史がありました。
それおw考えたらちょっと虫が良すぎるかもしれませんが、あと数百万年をまたずに、脳の自己コントロール機能を向上させることはできないのでしょうか。
神経科学者たちが発見したところによれば、脳はまるで熱心な学生のように、経験したことを見事に学んで身に着けます。
たとえば、毎日数学をやれば、数学に強い脳になります。
心配事ばかりしていれば、心配しやすい脳になります。
繰り返し集中を行えば、集中しやすい脳になるというわけです。
繰り返し行うことは脳にとって容易になるだけでなく、それに合わせて脳じたいが変化します。
まるで筋肉がトレーニングによってたくましくなるように、脳の一部の灰白質が増強されるのです。
意志力のトレーニングとしては、たとえば誘惑の罠を家じゅうにしかけて、「やらない力」を鍛えるのもよいでしょう。
靴下の引き出しにチョコバーを入れて置いたり、エアロバイクのわきにお酒のボトルを並べたり、冷蔵庫のドアにもう結婚してしまった恋人の写真を貼ってみたり。
また逆に「やる力」を作るための障害物コースを作ってみましょう。
青汁を飲んだり、縄跳びを20回やったり、税金を早く支払ったりして、障害を次々にクリアしていきます。
あるいは、もっと簡単で苦痛がない方法があります。
瞑想です。
神経科学者の発見によれば、瞑想を行うようになると、脳が瞑想になれるだけでなく、注意力、集中力、ストレス管理、衝動の抑制、自己認識といった自己コントロールのさまざまなスキルが向上します。
瞑想を定期的にな行うと、やがて脳はすぐれた意志力のマシーンのように発達します。
定期的に瞑想を行う人の場合、前頭前皮質や自己認識のために役立つ領域の灰白質が増加するのです。
意志力の実験:5分で脳の力を最大限に引き出す
呼吸に意識を集中するのは、かんたんながら実に効果的な瞑想のテクニックであり、脳を鍛え、意志力を強化するのに役立ちます。
これによって、ストレスも減少し、気が散るような内的な要因(欲求、心配、欲望)や外的な誘惑(聞こえてくるもの、見えるもの、匂い)に惑わされないようになります。
最近の研究では、定期的に瞑想を行った場合、禁煙や減量に効果があり、薬物やアルコールへの依存症への対策としても効果があったことが分かっています。
この5分間の瞑想は、脳を鍛えて意志力を強化するには、最適な方法です。
①動かずじっと座ります
椅子に座って足の裏を床にぴったりつけるか、クッションの上であぐらをかきます。
背筋を伸ばし、両手は膝の上。
そわそわしないこと。
もしかゆいところをかきたいと思ったら、腕の位置を動かすとか、足を組みなおすなどして、かゆくなっても、かかずにいられるかどうか試してください。
ただじっと座っているだけでも、意志力を強化するトレーニングになります。
これにより、脳や体が感じる衝動に、いちいち従わないようになります。
②呼吸に意識を集中します
目を閉じるか、一点を見つめる。
そして、呼吸に意識を集中します。
息を吸いながら、心の中で「吸って」といいます。
そしてこんどは、息を吐きながら「吐いて」といいます。
気が散りだしたら(自然なことです)、また呼吸に意識を集中させます。
③呼吸をしているときの感覚をつかみ、気が散り始めたら意識します。
数分経ったら、心の中で「吸って」「吐いて」と言うのをやめます。
呼吸しているときの感覚だけに集中してみましょう。
鼻や口から息が出たり入ったりする感覚に気づくでしょう。
お腹や胸が膨らみしぼんでいくのがわかります。
いつのまにかほかのことを考えているのに気づいたら、前と同じように、また意識を呼吸に戻します。
もしも、意識を戻すのが難しいなら、「吸って」「吐いて」を心の中で言ってみましょう。
瞑想はまずは1日5分から。
それが習慣化したら、1日10分15分と伸ばします。
練習時間が長くなることで、明日へと伸ばしてしまうよりは、短くても毎日練習した方がよいでしょう。
1日の中で瞑想する時間を決めてしまうのもよい方法です。
それが無理なら、都合の良いときに行いましょう。
しばらくサボっていた瞑想も、またスタートしてみようと思います。
5分だけ・・・。
少しは休めましたか?
あたたかくして、素敵な夢を。
では、また。