突然走る興奮。頭がかっとなって、胸がドキドキ。
欲しいのは、1本のタバコ、お酒、トリプルラテ?
今シーズン最後のセール、宝くじ、ドーナッツもおいしそう!
さあ、そんなときあなたは選択を迫られます。
意志力が試されるときは、自分でもちゃんとわかります。
体でびしびし感じるからです。
自分の中で戦いが起こったような感じー2人の自分というよりは、似ても似つかない他人同士が戦っている感じです。
そんなあなたに上手にブレーキをかけるのは、呼吸法。
1分に4~6回のゆっくりとした呼吸にすることで、意志力が高まります。
第2章 意志力の本能
欲しくて仕方ないものが目の前に現れた時、ときには、欲求が勝ちます。
しかし、分別のある自分、あるいは自分にとってほんとうによいことを望む自分が勝つこともあります。
そんなとき、あなたの体はどうしているのでしょうか。
科学の発展により、自己コントロールは心理学のみならず生理学にもかかわる問題であることがわかってきました。
つまり、自制心を発揮するとは、心と体の両面において衝動を克服する強さと落ち着きが生まれている状態なのです。
研究の結果、自制心を発揮しているときはどんな生理状態にあるのか、またなぜその状態は現代社会のもたらす複雑さによって妨げられることが多いのか、わかってきました。
さらに、トレーニングを積めば、肝心な時に自分の体を自制心を発揮できる状態に切り替えられることもわかりました。
やり方次第で、体をそのような状態に保つこともできるのです。
体が勝手に「衝動的」になる
自制心を発揮すると、体で何が起きるのでしょうか。
私たちは太古の昔猿人だったころ、肉食獣に襲われる危険といつも隣り合わせでした。
ピンチに遭遇した時、そんな状況を切り抜けるための本能を先祖から受け継いでいます。
この本能はいみじくも「闘争・逃走ストレス反応」と呼ばれています。
どんな状態か、わかるでしょう。
ドキドキして思わず歯を食いしばり、全神経を研ぎ澄ませて警戒しています。
瞬発的に全力を出して行動できるように、脳と神経系の高度な連携によって備えているのです。
この闘争・逃走反応は、自然が人類に与えた最も優れた贈り物の一つです。
体や精神のエネルギーを無駄に背う、絶体絶命のピンチを乗り切るために集中して使うことができます。
こうしてあなたは誘惑に負ける
かわって、現代。
あなたは街の大通りを散歩していて、通りがかりのケーキ屋さんのショーケースにあった見たこともないほどおいしそうなストロベリー・チーズケーキ!
あなたの足は、「ダイエット中でしょ」という戒める暇もなく、ケーキ屋さんにまっしぐら。
このとき、あなたの脳と体は何が起きているのでしょうか。
脳は一時的に報酬への期待に支配されています。
あのチーズケーキをいた瞬間、ドーパミンを放出され、注意力やモチベーションや行動をつかさどる脳の領域に到達します。
このドーパミンという小さなメッセンジャーが、脳に命じるのです。
「今すぐあのチーズケーキをゲットしろ。さもなくば、死よりも悲惨な運命が待ち受けているぞ」
これがあなたの手足の反射的ともいえるほどの俊敏な動きにも説明がつきます。
こってりしたチーズケーキの最初の一口を脳が予測したとたん、神経系に作用する物質が分泌され、ありったけのエネルギーを集めるように体に命じるのです。
体のロジックはこうです。
血糖値が一気に上昇することを予想し、血中糖分を下げます。
体はなんて親切なんでしょう!
そうして血糖値が下がると、体が少し震えたり、ふらついたりして、さらにチーズケーキが食べたくなるのですから、何とも油断がなりません。
しかし、あなたには秘密兵器があります。
意志力です。
どんな大変な時でも、自分にとって最も重要なことを行う能力です。
さて、いま一番大事なのは、チーズケーキのおいしさに舌鼓を打つことではありません。
もっと大事な目標を忘れない自分がいます。
将来の自分の健康や幸せ、それに明日こそあの細身パンツをはけるようになりたい、という目標。
猿人のころに猛獣から闘い、逃げるときの脅威と違って、今回は内なる敵が相手です。
自分のなかにある欲求を何とかしなければならないのです。
そうなると、身を守るためには自制心を発揮する別の方法が必要です。
このような新たな脅威に立ち向かうための方法が求められます。
マイクロスコープ:なぜ「やりたくないこと」をしてしまうのか
私たちは、誘惑やトラブルの素は自分の外側あると思っています。
危険なドーナッツ、罪深いタバコ、楽しいインターネットなど。
けれども、自己コントロールは私たちの内面に鏡を向け、私たちの思考、欲望、感情や衝動を映し出します。
あなたは意志力のチャレンジに関して、抑制すべき「内なる衝動」とは何かを明らかにしましょう。
いったいどんな考えや感情のせいで、ほんとうならやりたくないはずのことを、やりたくなってしまうのでしょうか?
実際に観察してみると、詳しくあなたの衝動を見つけることができます。
次に誘惑にかられたときは、あなたのチャンス。
あなた自身の内側に意識を向けてみましょう。
一呼吸おいて考える本能
ケンタッキー大学での研究では、ストレスや希望などの心理状態が体に与える影響を研究しています。
彼女はストレスと同様に自制心が生まれた場合も、生物学上の兆候が表れることを発見しました。
自己コントロールが必要になると、脳と体が連携し、誘惑に打ち勝って、自己破壊的な衝動を乗り越えようとします。
これは、闘争・逃走反応とはまったく逆のものです。
内なる葛藤を認識したとき、やりたいことがあるけれど、やってはいけないと認識しているとき、あるいはやりたくないけどやらなければならないとき。
あなたの本能が悪い決断をあなたにさせようとしています。
この場合、もっとも効果的なのは、闘争・逃走反応のようにすぐに行動に出ることではありません。
むしろ落ち着くことです。
「休止・計画」反応がまさにそれです。
内なる葛藤を認識することが重要です。
それによって、脳と体に変化が起き、あなたを落ち着かせて衝動を抑えようとします。
「自己監視システム」が脳にエネルギーを集める
「休止・計画」反応も脳で起こります。
脳の警報装置が、外敵から身を守るために音や視界や匂いに絶えず注意を払っているのと同様、脳のほかの領域は、あなたの内部での変化も見張っています。
この自己監視システムの範囲は脳の隅々まで及び、前頭前皮質の自己コントロールをつかさどる領域と、身体感覚や思考、感情を監視する領域とを結びつけています。
このシステムの重要な役目の一つは、あなたが愚かな間違いをしないように見張ること。
たとえば、半年も続いた禁煙や禁酒を破るとか、顧客を怒鳴りつけるとか、支払期限の過ぎたカードの請求書を知らんぷりするとか。
自己監視システムは、警戒サインが表れやしないかと待ち構えています。
心に浮かぶ考えや感情、身体感覚など、あなたが後悔することをやってしまいそうな気配を見逃すまいとしているのです。
脳がそのような警戒サインに気づくと、前頭前皮質は、あなたが正しい選択を行えるよう、即行動。
前頭前皮質を助けるため、休止・計画反応が起き、体中のエネルギーを脳へ向けます。
自己コントロールを発揮するには、逃げるための足や殴るための腕もお呼びではなく、力を発揮するためにエネルギーを蓄えた脳が必要だから。
脳内だけではありません。
さきほど、チーズケーキを見たとたんに体が反応しました。
しかしダイエットという目標を達成するため、脳は体も一緒に働かせて、衝動にブレーキをかけようとします。
そのため、前頭前皮質は、自己コントロールの指示を出し、心拍数や血圧や呼吸など、自働的な機能をつかさどる脳の働きを鈍らせます。
心拍数は下がり、血圧は通常のまま上がりません。
体は、よけいな力を抜いてリラックスします。
食べ物で「意志の保有量」が変わる
休止・計画反応の測定に最もよい生理学的な方法は、心拍変動と呼ばれるものです。
これにより、体がストレス状態か、穏やかなのか、驚くほどわかるそうです。
心拍変動は、研究によると、高い人ほど気が散るものを無視したり、欲求の充足を遅らせたり、ストレスへの対処が上手であることがわかっています。
こうした発見を踏まえ、心理学者たちは、心拍変動が高いほど「意志力の保有量が高い」と言っています。
もちろん意志力は、食べるものや住むところなど、ストレスを与えるものの多少によっても大きく影響します。
意志力の実験:呼吸を遅らせれば、自制心を発揮できる
その意志力をてきめんに高める方法に、呼吸のペースを1分間に4回から6回までに抑えるというやり方があります。
1回の呼吸を10~15秒にするので、ふつうの呼吸よりもだいぶゆっくりですが、少し辛抱強く練習すると、たいして難しいことではありません。
呼吸のペースをゆっくりにすると、前当然皮質が活性化します。
また心拍変動が上昇します。
これが、脳と体をストレス状態から自制心を発揮できる状態に切り替えるのに役立つのです。
このテクニックを数分間試す地に、気分が落ち着いてコントロールが効くようになり、欲求や問題に対処する余裕が生まれるそうです。
たいていの人にとっては、息を吐くのを遅くする方が簡単なので、ゆっくりと完全に息を吐くことに意識を集中してみること。
こんどはたっぷりと息を吸うのが楽になります。
呼吸のペースは1分間に4回まで減らせなくても構いません。
呼吸数が1分間に12回以下になれば、心拍数は確実に上昇するそうです。
この練習を定期的に行えば、ストレスに強くなり、意志力の保有量も増えることが研究で分かっています。
ある研究では、薬物乱用や心的外傷後ストレス障害(PTSD)の元患者たちが、ゆっくりと呼吸する練習を毎日20分間行ったら、心拍変動が上昇し、欲求や憂鬱が緩和されることがわかりました。
心拍変動のトレーニング・プログラムは、景観や証券トレーダーや顧客サービス窓口のオペレーターなど、最もストレスの多い職業の人々を対象に、自己コントロールの向上やストレスの緩和を目的に実施されているそうです。
よく、「理性的になるには、深呼吸すること」とありますね。
前頭前皮質が活性化するから「意志力」が上がって、理性的な自分が出てくるからなんですね。
今日もお疲れさまでした。
ゆっくり休んで、すてきな夢が見られますように。
では、また。