これまで読んできた通り、心の中にはたったひとりの事故がいるわけではなく、相反するいくつもの自己が、自己コントロールをめぐってせめぎ合っています。
目先の欲求に従おうとする自己も存在すれば、もっと大きな目標を忘れない自己も存在します。
おまけに現在の自分というものもいて、それが将来の自分と深くつながっているように感じる人もいれば、そうでもない人もいるでしょう。
「他人の欲求」を自分の欲求のように感じる
そのうえ、これでもかといわんばかりに、あなたの頭の中にはまだ何人かの人が住んでいます。
とはいえ、多重人格障害のことではありません。
両親、配偶さ、子供、友人、上司など、あなたが日常生活で深くかかわっている人たちのことです。
人間は他人とかかわって生きていくようにできており、脳はそのためにうってつけの機能を備えています。
ミラーニューロンという特殊な細胞があるのですが、これは他の人の考えや感じていること、行っていることを把握するのみ存在する細胞です。
ミラーニューロンによって私たちは、他人の行動を理解できます。
人の動きを見ると、ミラーニューロンが活性化し、あなたの脳があなたの体の中で相手の動作を再現しようとします。
それによって、相手が次にどんな動作をしようとしているのかを予測します。
一緒に作業している人が、ちょっとけがをしてしまったりすると、あなたは相手の痛みをすぐに察知します。
それであなたの体はぴくっと反応するのです。
食事の時間に相手の好きな食べ物が出たりすると、自分はそれが好物でなくても、相手がそれを好きだと知っていれば、あなたの脳も報酬を期待し始めます。
ミラーニューロンが他人の心の中に報酬を期待する気持ちを読み取ると、自分にもご褒美が欲しくなってしまうのです。
脳は「目にした失敗」をまねたがる
以上のことは、社会脳はが意志力の問題におこる失敗をまねる3つのパターンを示していました。
1つは、無意識にまねをすること。
他人の動きを察知するミラーニューロンは、人と同じ動きをあなたの体で起こそうとします。
仕事相手が何かに手を伸ばしたのを見た時、あなたは無意識のうちに取ってあげようとするかもしれません。
会話しているうちに、相手のボディランゲージが似てきたり。
このように他人の行動を本能的にまねしてしまうということは、いつの間にか誰かがスナック菓子やお酒やクレジットカードに手を伸ばすのを見たら、自分も真似して意志力を失ってしまうかもしれないということです。
社会脳が私たちの判断を誤らせる2つめのパターンは、感情に感染すること。
先ほどの例では、ミラーニューロンが相手の痛みに反応しましたが、ミラーニューロンは感情にも反応します。
同僚に機嫌の悪い人がいると、周りまで不機嫌になったりするのはそのせいです。
テレビのコメディ番組で笑い声の効果音を使うのもそのためです。
ここで意志力の挫折につながるのは、”嫌な気分”です
これに感染すると、私たちは気晴らしのためにいつもの作戦に出ようとします。
買い物をしまくったり、チョコバーをかじったりしてしまうかもしれないのです。
3つめは、誰かが誘惑に負けるのを見ると、私たちの脳が誘惑に反応してしまうこと。
あなたと同じ意志力のチャレンジに取り組んでいる人が誘惑に負けた姿を見ると、あなたもつられて負けたくなります。
また、他人が欲しがっているものをあために思い描くと、自分も同じものが欲しくなったり、他人がもりもり食べているのを見ると、自分も食べたくなったりします。
マイクロスコープ:誰の真似をしていますか?
今週は、自分が誰かの行動をまねしているかどうか、注意してみましょう。
とくに、あなたの意志力の問題にかかわることに注目します。
仲間とつるんで楽しみにふけることが、お互いを結び付け仲間関係を持続させる理由になっていませんか?
同じことをするにしても、ほかの人たちと一緒だとついやりすぎてしまったりしませんか?
ミラーニューロンは、なくてはならないものですが、それに騙されないようにしたいものですよね。
自分が誰の真似をしているのか、ちょっと見つけてみようと思います。
今日もお疲れさまでした。
ゆっくり休んで、すてきな夢が見られますように。
では、また。