名門ミシガン大学心理学研究室に他の大学から引き抜かれて採用されたクロッカー。
だれにも負けないような実績があるにもかかわらず、死に物狂いで何年も奮闘した挙句、バーンアウトを起こしました。
長期休暇を取る中で、ワークアウトに参加。
そこで、彼女の失敗の原因が、自分の考え方にあることに気づきました。
自分がつねに他人との競争に追われ、自分のことばかり考えていたことが、彼女の首を絞めていたのです。
大事なことは、「自分より大きな目標」を持つこと。
自分はコミュニティの中でどのような役割を果たすべきか、自分はどんなふうに貢献したいのか、どんな変化をもたらしたいのか、ということを考えて目標にするのです。
クロッカーと同僚たちは、「自分のための目標」を持つと「自分よりも大きな目標」を持つのでは、学業上の成功や、仕事のストレスや、個人的な人間関係や、健康状態に、どのようなちがいが現れるかについて、文化が大きく異なるアメリカと日本で研究を行いました。
最初にわかったことのひとつは、人々は「自分よりも大きな目標」とつながっている方が、よい気分でいられるということでした。
希望や、好奇心、いたわり、感謝の気持ちが湧きます。
発想が豊かになって、ワクワクします。
いっぽう、「自分のための目標」だけに向かって努力していると、頭が混乱したり、不安や怒りを感じたり、ねたみや孤独にさいなまされたりすることが分かりました。
このような目標の持ち方が感情に与える影響は、時間とともに増大するため、「自分のための目標」をひたすら追求している人をひたすら追求している人は、うつ病になる可能性が高くなります。
いっぽう、「自分よりも大きな目標」を目指している人は、健康状態もよく幸福で、人生に対する満足度も高くなります。
こうしたちがいが生じる理由の一つは、「自分よりも大きなもの」に貢献しようと考えて動く人は、結果的に強力なネットワークを築くことになり、仲間と支えあうことができるからです。
いっけん矛盾しているようですが、自分の能力を証明するより、周りの役に立つよう心掛けている人の方が、自分の能力を証明することに熱心な人よりも、周囲から尊敬され、好かれるようになります。
いっぽう「自分のための目標」だけに邁進している人たちは、周囲の怒りを買ったり、嫌われたりする可能性が高く、やがて周りからの援助も得られなくなります。
長期休暇の前のクロッカーのように職業的には成功していても、孤立感が強かったり、たとえ高い地位についていても不安につきまとわれます。
しかし重要なのは、これらふたつの目標の持ち方は、個人の性格によって完全に決まってしまうわけではないことです。
クロッカーの研究によって、人は誰でも両方の目標を持っており、目標の持ち方は長いあいだには変化することがわかっています。
(周囲の人たちからも、大きな影響を受けているようです。
クロッカーの研究によって、わたしたちは「自分のための目標」にも「自分よりも大きな目標」にも、感染しやすいことが分かっています)。
クロッカーは初期の研究において、参加者が無意識のうちにどちらかの目標を抱くように仕向け、参加者のモチベーションを操作しようとしました。
しかしまもなくクロッカーは、参加者が自分で意識的に目標の持ち方を変えた時の方が、はるかに効果が大きいということに気づきました。
「わたしにとって”自分よりも大きな目標”って何だろう」
と、じっくり考える機会を与えられた人たちは、自分の目標の持ち方を変えることができます。
さらにはそうすることで、ストレスの感じ方までも変わるのです。
クロッカーと同僚たちは、ある研究で、「自分よりも大きな目標」を考えることがもたらす効果を調べるために、実験のなかで強いストレスを与える模擬就職面接をしました。
何名かの参加者には、面接前、簡単なマインドセットとして次のメッセージを伝えました。
「面接のときは、みなさんどうしても競争意識や、自分を良く見せたいという思いが強くなりがちです。
しかし、それとは違った取り組み方として、この職務に就いたら、自分はどのように人々の役に立てるか、あるいは大きなミッションにどのように貢献できるかを考えて面接に挑む、という方法もあります。
自分の能力を証明するよりも、”自分より大きな目標”について考えるということです」
そのあと参加者は数分間、じぶんいとってもっとも重要な価値観について考え、さらに、その職務に就いたらどう人の役に立てるかを考えました。
ここで大事なのは、実験の担当者が「自分よりも大きな目標」について、いっさい例を示さなかったことです。
それは参加者たちが自分で考えて見つけなければ意味がないからです。
参加者の考え方の転換(マインドセットシフト)がパフォーマンスに与えた影響を調べるため、就職面接の前後に、参加者のストレスホルモンの数値が調べられました。
さらに、面接の様子を録画。
予備知識のない外部の審査員が面接の画像を見て分析しました。
すると、「自分よりも大きな目標」について考えた参加者たちは、面接官らに対して親しみを示すしぐさをみせました。
例えば笑顔を見せたり、視線を合わせたり、無意識に面接官のボディランゲージをまねたり。
これはいずれも打ち解けた雰囲気を作り、人とのつながりを強める行為であることが分かっています。
また、審査員たちは介入を受けて「自分よりも大きな目標」について考えた参加者の話の方が、介入を受けなかった参加者の話よりも、聞いていて心を動かされると評価しました。
さらに参加者たちの考え方の転換は、体のストレス反応にも影響を及ぼしていました。
面接前に「自分よりも大きな目標」について考えた参加者の体には、「脅威反応」がほとんど起こらなかったことが、コルチゾールと副腎皮質刺激ホルモンというふたつのストレスホルモンの数値によって明らかになりました。
人間ですから、毎日の忙しさに追われていると、つい自分の功績を追いかけてしまいたくなります。
でも、「組織全体の動きと、そこで自分が果たす役割」が見えている瞬間って、すごくうまく動くことができて、とても感謝されたりしますよね。
そういう視点がある人って、尊敬です。
親の育て方や性格としてそういう視点を持っている人が多いと思います。
でも、自分で「意識して」目標を”自分より大きな目標”を持つことで、本当の意味での達成感を得られるのかもしれません。
そうありたい。
今日も、お疲れさまでした。
ゆっくり休んで、素敵な夢を。
では、また。