落ち込んだ時に、あなたは気晴らしに何をしますか?
米国心理学会では、最も一般的なストレス解消法は、食べたり飲んだりする、あるいはショッピング、テレビ、インターネット、ゲームなどという調査結果が出ています。
脳の報酬ステムを活発化させるものです。
ドーパミンが分泌されれば気分がよくなります。
気晴らしをしたくなるのは、いわば健康的な生き残りシステムのメカニズムで、危険から逃れようとすることと同様、人間の本能です。
しかし、何を息抜きにするかが、それが重要です。
報酬を期待しても、これまでに勉強した通り、楽しい気分に必ずしもなれるかというと、そうでもありません。
気分の落ち込みが挫折につながる
米国心理学会のストレスに関する全国調査で、最も一般的なストレス解消法は、実際それらの方法を行っている人々から、ほとんど「効果がない」と評価されました。
たとえば、食べることでストレスを発散している人のうち、この方法が実際に効果的だと答えたのは、たったの16%でした。
別の実験では、女性は不安を感じたり落ち込んだりするとチョコレートを食べることが多いことがわかりました。
ところが、チョコを食べても気分がよくなるどころか、かえって後ろめたさを感じるだけでした。
せっかく好物のお菓子を食べてもそんな有様では、たまったものではありません。
これから、ストレスや不安や後ろめたさが自己コントロールに及ぼすさまざまな影響を見ていきます。
気分が落ち込んでいると、思いがけない形で誘惑に負けてしまうことがわかります。
これが実験室でなく、人間が現実にストレスを感じた場合は、禁煙や禁酒、薬物断ちやダイエットなどを破ってしまう恐れが高くなります。
喫煙に対する恐ろしい警告表示のせいで、喫煙者はかえってますますタバコを吸いたくなったり。
経済危機のせいで、人々の購買欲は高まったり。
毎晩ニュースを見ているせいで、なぜか太ってしまったり。
まったくわけがわからないような話ですが、いかにも人間らしいといえます。
このようなストレスによる意志力の挫折を防ぐには、誘惑に負けることなく気分転換のできる方法を見つける必要があります。
そして、自分を責めたり批判したりして自分をコントロールしようとするのは、やめなければなりません。
そんなことをしても、さらに落ち込むだけだからです。
大半の「ストレス解消法」は意味がない
実は、落ち込んでいると脳はとりわけ誘惑に負けやすくなります。
科学者はさまざまな方法で被験者にストレスを与えましたが、結果はいつも同じ。
たとえば、喫煙者が歯医者に行かなくてはとなぜか猛烈にタバコが吸いたくなります。大食漢な人が、スピーチを頼まれると、なぜかこってりした甘い食べ物が食べたくなります。
実験用ラットにいきなり電気ショックを与えると(脳の報酬センターではなく、体に!)、ラットはアルコール、砂糖、ヘロインなど、研究者がケージの中に用意したものに飛びつきます。
なぜ、ストレスを感じると欲求が生まれるのでしょうか?
それは、いわば脳によるレスキュー作戦なのです。
私たちはすでにストレスが闘争・逃走反応を引き起こすことを学びました。
しかし、脳はあなたの生命を守ろうとするだけでなく、気分も安定させようとします。
そこで、脳はストレスを感じると、とにかく気が晴れるようなことをさせようとします。
ストレスを感じると、(怒り、悲しみ、自信喪失、不安などのネガティブ感情も含めて、)脳は報酬を求める状態に切り替わることを神経科学者たちは証明しました。
あなたは報酬が期待できると脳が判断したものをほしくなり、気晴らしになるためには、その報酬を手に入れるしかないと思い込みます。
コカイン依存症の人が家族とのけんかや職場で誰かに批判されたことを思い出すと、脳の報酬システムが活性化して、コカインが猛烈にほしくなります。
闘争・逃走本能によって発生したストレスホルモンも、ドーパミン神経細胞の興奮を高めます。
つまり、ストレスを感じている状態では、どんな誘惑もやたらと魅力的に感じてしまうのです。
ある実験では、チョコレートケーキに対する参加者の反応を調べました。
参加者には、チョコレートケーキで何か失敗した経験を思い出してもらいます。
その前と後で、参加者がチョコレートケーキについて感じたことを比較します。
どの参加者も、気分が落ち込んだ時はケーキがおいしそうに見えたと回答しました。
しかも、チョコレートケーキが好きではないと言っていた人たちまでが、気分直しにケーキを食べてみようという気になったというのです。
ストレスを感じていないときは、やけ食いなどしてもほんとうの気晴らしにならないとわかっているはずですが、いざストレスに襲われ、脳の報酬システムが、「冷蔵庫にアイスクリームが入っているよ!」と叫んだとたん、分別は吹っ飛んでしまいます。
ストレスは私たちをまちがった方向へ進ませ、思慮分別を失わせ、いたずらな本能のままに動かそうとします。
まさに、ストレスとドーパミンのワン・ツー・パンチ。
その結果、ほんとうは効果などないのに、原始的な脳が喜びに至る道だと決めつけた作戦を、私たちは何度も繰り返すことになります。
報酬を期待して息抜き作戦に出ると、とんでもないことをする恐れがあります。
ある経済調査では、お金の心配をしている女性は、不安や憂鬱を紛らわすために、買い物をしてしまうという結果が出ました。
明らかに矛盾していますが、側溝の気晴らしを望む脳にとっては、じつに理にかなった行動です。
あなたもショッピングをして気が晴れると思っていると、お金の心配を紛らわすために買い物をしてしまうかもしれません。
大食いで太りすぎていて恥ずかしいと思いながらも、食欲を抑えられない人が気晴らしにするのは?
そう、もちろんさらに食べまくること。
のんびりしてプロジェクトのスケジュールが遅れて、すっかり焦った人たちが、そのことを考えたくないばかりに仕事を先延ばしにしてしまったり。
いずれも、自己コントロールよりも気晴らしが優先されてしまうのです。
意志力の実験:根拠のある方法を実行する
大半のストレス解消法は役に立たないとしても、中には本当に効果があるものがあります。
米国心理学会では最も効果的なストレス解消法として、
「エクササイズやスポーツをする」
「礼拝に出席する」
「読書や音楽を楽しむ」
「家族や友達と過ごす」
「マッサージを受ける」
「外へ出て散歩する」
「瞑想やヨガを行う」
「クリエイティブな趣味の時間を過ごす」
などの例を挙げています。
では、効果のある方法と、ない方法では、どこが違うのでしょう。
ほんとうに効果のある方法は、ドーパミンを放出させて期待させるのではなく、セロトニンやガンマアミノ酪酸などの気分を高揚させる脳内化学物質、オキシトシンなどの気分を良くするホルモンを活性化させます。
また、脳のストレス反応をシャットダウン。
体内のストレスホルモンを減らし、治癒反応や弛緩反応を起こします。
そのようなストレス解消法を試したときは、ドーパミンが放出された時のような興奮はしないため、はっきりどんなに気分がよくなったかは気づかないことが多いのです。
したがって、私たちがそのような効果的なストレス解消法を忘れがちなのは、効果がないからではありません。
ストレスを感じているときの脳は、どうすれば気が晴れるかについて正しい判断ができないからです。
ですから、確実に気分転換できる方法を私たちは選ばないことが多いのです。
今度ストレスを感じて息抜きをしようと思ったときは、「効果的な方法」を試してみましょう。
まずは、自分を責めないことと、あまり落ち込まないようにすること。
頭がストレスでいっぱいになってはいないときに、いつもやっている「ストレス解消法」がほんとうに「ストレス解消」になっているのか、冷静に見直し、「効果的な方法」を探すこと。
そして、ストレスがマックスになったときも、「効果的な方法」を試してみること。
当たり前のことではあります。
でも、ストレスがかかったときに、衝動的な快楽に持っていかれてしまうのは、脳の構造上どうにもこうにも仕方のないこと。
ですから、具体的に日ごろから方策を立てておくことが大切なのかもしれませんね。
明日は「死亡事故を見たら、ロレックスが買いたくなる」ことについて勉強します。
なんじゃそりゃ。
今週もお疲れさまでした。
明日は休めるのでしょうか?
ゆっくりしてくださいね。
では、また。