本書は人間関係に「がんばりすぎる」人のために書かれたもの。
”チカラの抜きどころ”を61個書いています。
どれも「そうか!」と思えるものばかり。
私たちはついつい、自分の服装や行動、言葉、態度に自分の思っているあまりきれいじゃない部分が見えていて、他人にはばっちりばれていると考えがち。
しかし実際は、研究からも、私たちの気持ちは思いのほかほかの人には気づかれていないことがわかっています。
そうしたエビデンスが頭にあれば、私たちはもっと自由に、肩の力を抜いて、好きなことができるのではないでしょうか。
スポットライト効果
コーネル大学のトーマス・ギロウィッチは、大学生に、「バリー・マニロー」という無名ミュージシャンの写真がでかでかとプリントされた、とても恥ずかしいTシャツを着せて、「キャンパス内を歩いて1周してきてくれ」とお願いしました。
それから実験室に戻ってきたところで、こう尋ねました。
「通りすがりに出会った人たちは、どれくらいあなたのことを見ていたと思いますか?」と。
すると参加者たちは、
「47%の人は、確実に私のことを見ていたはずだ」
と推測しました。
じつはこのとき、別の実験協力者が参加者の後からこっそりついていって、通りすがりの人に出会うたびに、
「今通り過ぎた人のTシャツを見ましたか?」
と確認して回ったのですが、このおかしなTシャツに気づいた人は、わずかに24%。
つまり、私たち人間はとても自意識過剰なところがあって、たいして見られてもいないのに、
「絶対に見られているはず!」
と思い込んでしまうところがあるのです。
これをスポットライト効果といいます。
このような極端に恥ずかしいことでなくても、私たちはつい自分のことをあれこれ気にしますが、現実には、周囲の人たちはそんなに他人のことを気にかけていないものです。
人は自分に対して”厳しい評価”をしてしまうもの
カナダのブリティッシュコロンビア大学のリン・アルデンは、意見を述べるのが得意な人と、苦手な人に集まってもらい、自分の意見を述べてもらう姿をビデオ録画させてもらいました。
それから、そのビデオを別の学生に評価してもらう一方、意見を述べた人にも自己評価してもらいました。
その結果、意見を述べるのが苦手だという人は、
「私は手が震えて、声が震えて、ものすごく情けない姿をさらしている」
と自己評価しました。
ところが、ビデオを見て評価している人は違いました。
なんと、
「この人は、きちんと自己主張できているし、スムーズに話しているし、不安も感じていないように見える」
と評価したのです。
現実的には、「人前に出るのが苦手」と思っている人も、たいていは思い込みなのです。
何を考えているか、それはだれにもわからない
人の心は目に見えないもの。
どれほど動揺していようが、不安になろうが、相手にはわからないのです。
相手に見抜かれているのでは、と思って不安になる思い込みは、「透明性幻想(異種―ジョン・オブ・トランスペラシー)」と呼ばれています。
もちろん、そんなことはなく、まったく心配ないのです。
どんなホンネも驚くほど伝わらないもの
仕事でどうしてもウソをつかなければならないことは、誰にでもあること。
そんなとき、ウソがばれてしまうことが心配になったりするものです。
カナダのマニトバ大学のジャッキー・ファラウは、実験参加者をペアにして、疑似的交渉をさせました。
ただし交渉に先立って、参加者には5つの目標のうち、どれか1つが与えられました。
その5つの目標とは次の5つです。
①自分の考えを決して曲げないように
②相手を満足させるように
③双方が譲歩する回数が同じになるように
④ベストな解決策を探るように
⑤相手に好かれることだけを考えるように
交渉が終わったところで、
「相手の目標はこの5つのうちのどれだったと思いますか?」
と推測してもらったのですが、26%しか当てることはできませんでした。
選択肢が5つなのですから、あてずっぽうでも20%は正解することになりますから、26%というのは、あてずっぽうとそれほど変わりません。
さらにこの実験の面白いところは、
「相手はあなた自身の目標がどれだったのか、相手にどれくらいバレていると思いますか?」
と尋ねたところ。
なんと60%が「たぶん、見え見えだった」と答えたのです。
私たちは相手にバレていると思い込んでいるのですが、現実はバレないことがこの実験からわかるのです。
緊張して顔が赤くなると、好感度がアップする
カリフォルニア大学バークレー校のダッチャー・ケルトナーは、こう指摘しています。
赤面したり、恥ずかしがったりするのは、悪い評価を受けるどころか、むしろ”好ましく評価されることの方が多い、と。
それは、相手の緊張をほどくことができるからだそうです。
赤面したり、恥ずかしがったり、もじもじしていたりすると、
「ああ、この人は自分に害を与えることがないだろう」
と、人はほっと胸をなでおろします。
相手にいらぬ緊張をさせず、リラックスさせることができる。
だから、恥ずかしがり屋は好ましく評価されるのです。
「なんだか、かわいいな」
と思う相手には、好印象をもつことが多いと思います。
赤面はセールスポイントです。
うわべの付き合いでも幸福感は高まる
カナダのブリティッシュコロンビア大学のギリアン・サンドストロムは、200名を超える学生に、講義の前と後に、どれくらいクラスの人とおしゃべりするか、記録してもらいました。
どんな短い挨拶でもカウントしてかまわないことになっていました。
その一方で、「どれくらいしあわせを感じるか」の記録もつけてもらいました。
その結果、講義の前や跡に、ちょっぴりクラスメートとおしゃべりするだけでも、おしゃべりした日には幸福感が多感ることがわかりました。
親しく付き合うような強い絆などなくとも、うわべの付き合いからでも、私たちの幸福感は多感るようなのです。
ですから、親しく付き合う友人がいないからといって、嘆く必要はありません。
うわべの付き合いでも、それなりにしあわせを感じられているはずなのですから。
「人間関係はうわべで十分」と思えれば、気持ちが軽くなります。
シカゴ大学のニコラス・エプレイは、イリノイ州のホームウッド駅を利用している通勤客97名にお願いして実験に参加してもらいました。
エプレイは、通勤中に知らない人に話しかけ、がんばって「近所の人と話をするように」とお願いしました。
目的地の駅についたところでいろいろたずねてみると、知らない人に話しかけても、平均して14.2分とわりと長く話すことができ、とても楽しく会話できたと答え、「しあわせで気持ちがよかった」とこたえたのです。
たとえ知らない人でも、ほんの少し会話ができれば、私たちは思いのほかハッピーになれます。
たとえば犬を散歩させている人を見たら、「かわいいワンちゃんですね、お名前は何というのですか?」ときいて、「じゃあね~〇〇ちゃん」と手を振って通り過ぎれば、すごくしあわせな気分になります。
スーパーやデパートでレジ係の人に、「ここのお惣菜っておいしいですよね」と一言だけ話しかけます。
びっくりする人もいるでしょうが、たいていは「ありがとうございます」と笑顔で返事をしてくれます。
友人などいなくても、知らない人とちょこちょこ話をすれば、それで十分なのです。
まずはとんでもなく低いところから始めよう
「心の病気」は、カウンセラーやセラピストしか治せないかというと、そうではありません。
もちろん、相当ひどいときはカウンセラーのもとに行った方がよいのですが、「自分でも治すことができる」ということを知ってほしいと著者は言います。
アメリカン大学のルース・エーデルマンは、対人恐怖症と診断された52名の大学生に、週ごとに「課題」を与えて、症状を改善させられるか検証しました。
課題と言っても、そんなに難しいことではありません。
「今週は人の多いところに出向いて歩いてみよう」
「今週は、通りすがりの人5人に『ハロー』と声をかけてみよう」
といったレベルの物。
6か月後、エーデルマンは対人恐怖症の人を集めてスピーチをさせてみました。
普通の人もスピーチは不安になるものですが、しっかり課題をやっていた人ほど、不安を感じなくなっていることが確認されたのです。
まずはハードルを”極限まで低くする”のが大事
ただし、自分自身に課題を与えるには、もうこれ以上簡単にできない、というくらいに低いハードルの課題からスタートすることが重要です。
まずは、課題を10~20個ほど決めて、その難しさに応じて、レベル分けをします。
10個の課題で言うと、レベル1からレベル10まで。
そして、もっとも簡単なレベル1からスタートします。
たとえば、人付き合いに不安がある人なら、「人の目を見て話す」に不安を感じるでしょうから、まずは「鏡を見て、自分の目を見る」くらいから。
ダイエットもそうですが、自分の行動や思考を変えるときは、「半年とか1年かけてもいいんだ」と、のんびり取り組むことが成功の秘訣です。
人の目や評価は、気になります。
めっちゃ気になるのですが、そう言う自分はあんまり人のことなんか、見ちゃあいません。
わたしたちは、もっと自由にやっていいんですよね。
では、また。