本書の「エフォートレス」とは、心身に疲れが無く、エネルギーに満ちた、研ぎ澄まされた状態を指します。
現代社会では「死ぬ気で」「目一杯」努力することこそ評価されるべき、という思想があります。
しかし、頑張るほど成果がでない、なんてことがあなたの人生でも経験したことではないでしょうか。
重要な任務と楽しい行動を組み合わせ、「我慢」を「楽しい」に変化させていけたら、あなたのパフォーマンスはもっと上がりますよね?
そうしたハイパフォーマンスなあなたを実現させるには、やることはひとつ。
あなたの頭の中にある「頑張らなくては」「我慢しなくては」という固定概念を捨て、ネガティブ感情を取り払うことです。
そのためには、「何もしない」技術、休息で脳をリセットする方法を見つけましょう。
そして、注意力を発揮するため、頭の中と部屋のガラクタを片付けましょう。
それが、「エフォートレス思考」です。
エフォートレスな思考
パトリック・マクギニスは、努力家で優秀なエリートです。
有名大学を卒業し、ハーバード・ビジネス・スクールで経営を学び、超一流の金融機関に就職しました。
仕事は多忙を極め、週の労働時間は80時間に達し、休みはまったくとれません。
出張も数えきれなくて、航空会社のマイルがたまり、最上級会員のその上のランクに達したほど。
しかし、ある日パトリックが勤めていた巨大企業が実質的に破綻してしました。
パトリックは、朝になってもベッドから起き上がれなくなり、眠っていても嫌な汗をかくようになりました。
それまでのパトリックの生き方は、まさにジョージ・オーウェルの寓話小説『動物農場』に出てくる雄馬「ボクサー」のようだったのです。
ほかの馬より力持ちで働き者の「ボクサー」。
何か問題が起こると「俺がもっと頑張るよ」が口癖でした。
しかしその馬は、やがて過労で倒れます。
そして、解体業者へ送られてしまったのです。
「がんばって働けば、どんな問題も解決できると思っていました」とパトリックは言います。
「しかしどんなに頑張ったところで、その利益率はマイナスだったのです」
では、どうすればいいのか。
選択肢は3つでした。
1 このまま死ぬまで頑張り続ける
2 成功を諦めて楽な仕事をする
3 頑張らない働き方でうまく成功を手に入れる
苦労は本当によいことなのか?
私たちは大事な仕事に持てる時間とエネルギーのすべてを注ぎ込みます。
そして時には心の健康さえも犠牲にします。
まるで自己犠牲にこそ価値があると言わんばかり。
そして多くの人は、「血、汗、涙」をしぼって働くことに価値があることだとされ、「苦労して勝ち取った」勝利こそ尊いと言われます。
しかし、あえて著者はあなたに問います。
もっと簡単なやりかたを見つけても良いのではないでしょうか?
最小限努力の法則
人の脳はもともと、困難なことを避けて、簡単なことを好むようにできています。
日常生活でもたとえれば、遠くの安売りスーパーへいくのは面倒だから、目の前のコンビニで買い物を済ませてしまったり。
実はこれはとても自然です。
そして、生き物として生存に不可欠なバイアスです。
必要な力を出すときとそうでないときを、しっかり区別していくことは、私たちが生きる上で大事なことでもあるのです。
何でも努力して頑張ればいいか、というとそうではありません。
頑張りすぎは失敗のもと
コンサルタントのキャリアが軌道に乗ろうとしていたころの著者。
ある重要なクライアントから、リーダーシップに関わるプレゼンテーションを3つやってほしいと頼まれました。
プレゼンが全部うまくいけば、来年以降の契約は確実だと言います。
なんとしてもプレゼンを成功させようと、資料を用意して、先方の承認をとりつけました。
最初のプレゼンテーションの前日、スライドを見直していた著者は、内容に手を加えたくなりました。
すでに完成していましたが、もっといいものができる気がしたのです。
著者は自分のアイデアに夢中になりました。
顧客をあっと言わせようと、1から資料を作り直しました。
徹夜でスライドを修正し、配布資料を作り直し、シナリオを書き換えました。
もちろん、検証する暇はありませんでした。
ひどい寝不足のまま、顧客のオフィスに向かいました。
ぐったりと疲れ切っていました。
頭から煙が出そうでした。
プレゼンを開始した途端、これはまずいと思いました。
イントロの話は聴衆に響きません。
スライドは頭に入っておらず、何度も振り返って内容を確認しなければなりません。
話の内容とスライドの表示がまったくあっていない箇所もありました。
大失敗でした。
ほとんどパニックになりながら部屋を出ました。
最高のチャンスを与えられたのに台無しにしてしまったのです。
残りの2つのプレゼンテーションは顧客からキャンセルされました。
もちろん契約は白紙になりました。
そのときのことを思い出すと、著者は今でも顔を覆いたくなるという、まさに最悪の失敗でした。
何が間違っていたのかは、明白ですね。
成果を焦るあまりに、考えすぎたのです。
そして、頑張りすぎたのです。
その結果、目の前にあったはずの成功を、ぶち壊してしまいました。
この経験から得られた教訓は、
頑張りすぎは、失敗のもと、ということ。
考えてみれば、著者は子供のころからそうでした。
私たちも同じではないでしょうか?
努力が足りなくて失敗したことはほとんどなく、いつだって頑張りすぎて失敗しているのです。
私たちの社会には「頑張らなくてはダメだ」という信念が蔓延しています。
その結果、本来ならばもっと簡単にできるはずのことが、どんどん困難になっているのです。
一流の人は休み方を心得ている
休むことをわざわざ学ぶ必要はない、とあなたは思うかもしれません。
でも、現代の忙しい生活の中で、多くの人はリラックスする方法を忘れているのです。
何もしないことに苦痛を感じてしまうのです。
ロサンゼルス・エンゼルスのジョー・マドン監督。
彼によれば、野球選手にも休むのが苦手な人が多いと言います。
マドンは長いキャリアの中で、監督やコーチ、スカウトなど多彩な任務に就き、さまざまな選手と触れ合ってきました。
「選手たちは早い時間に集合してバッティング練習をし、試合開始の何時間も前から準備するのが普通です」とマドンは言います。
野球のシーズンは長く、1か月半の間、ほぼ休みなく試合をこなすこともあります。
だから、秋になってプレーオフがおこなわれる頃には、選手はすっかり消耗しているのだとか。
そこで、マドンは別のアプローチをとりました。
「シーズンオフのあいだ、何もしない時間を存分に楽しみました。
何もしない時間をもっと持つべきだと思いましたね。
これはいい意味で言うんです。
何もせず、ゆっくりと休む時間こそが、大事だと気づきました」
彼は8月の暑い時期、いつも選手たちのパフォーマンスが落ちる時期があります。
この時に、マトンは1週間の特別期間を設けることにしました。
特別頑張るのではなく、特別怠けてもいい1週間です。
この期間、選手たちはとにかく試合に顔を出せばいいのです。
寝坊してもいい、昼寝してもいい。
アマチュアだったころのように、もっと気楽にやろうじゃないか。
一流の選手に一流のパフォーマンスを出してほしい時には、何もしない時間がどうしても必要なのです。
「少しリラックスるれば、頭がすっきりします。
そうしてすっきりしたほうが、いいプレイができるんです」
マドンはこのやり方で、エンゼルスをはじめ多くのチームで成果を上げてきました。
タンパベイ・レイズでこのやり方を導入したときは、その年のうちにワールドシリーズ進出が決まりました。
シカゴ・カブスは4年連続で最多勝利をあげ、2016年にはワールドシリーズに進出しました。
リラックスも、仕事のうちだ
やりすぎと不十分のあいだの、ちょうどいいポイントを見つけるのは、意外に難しいこと。
今日中に仕事を終わらせようと頑張りすぎて、次の日に起き上がれないほど疲れてしまうことはないでしょうか。
やりすぎを防ぐには、シンプルなルールに従うのがお勧めです。
1日の仕事は、1日ですっかり疲れが取れる程度まで。
1週間の仕事は、その週末ですっかり疲れが取れる程度まで制限するのです。
仕事が乗っているときは、エネルギー切れの兆候を無視してしまいがちです。
集中力が低下し、体力がなくなっていても、そのまま頑張ってしまいます。
カフェインや糖分を補給して、無理やり頭と体を働かせてしまうものです。
でも、そうやって疲れをごまかしているあいだも、疲労は溜まっていきます。
疲労が溜まれば、重要な仕事をやり遂げることが、どんどん難しくなってしまうのです。
心身の疲労を防ぐためのもっとも簡単な方法は、短い休憩を頻繁に挟むことです。
一流の人たちがやっているように、1日のリズムを計画的に整えて、最高のパフォーマンスを出しましょう。
たとえば、次のようなルールをつくってみることを著者は勧めています。
1 午前中に最優先の仕事をする
2 その仕事を、90分以内の3つのセッションに分割する
3 それぞれのセッションのあいだに短い休憩(10分から15分)を取り、頭と体を休ませる
1分の休息で最高のパフォーマンスを
カトリン・ダウ”ィズドッティルはアイスランド出身のアスリートです。
彼女の目標は、クロスフィットのチャンピオンシップで優勝し、世界最強の女性になることでした。
2014年、チャンピオンシップの最終予選で、ダウ”ィズドッティルは異常を感じました。
両腕の筋肉が痛み、悲鳴を上げていました。
あと一押しすれば優勝に手が届くところで、彼女はその場にくずおれました。
ルールでは2回チャレンジできることになっていましたが、もう精神的には限界でした。
やってみたものの、まったくうまくいかないのです。
彼女は途中で諦め、会場をあとにしました。
翌年、彼女はベン・バーガロンをコーチとして雇うことにしました。
ダウ”ィズドッティルに必要なのは、休息だ、とバーガロンは考えました。
2014年の大会の時、2度目のチャレンジの前に1分間でも長く休息をとっていたなら、心身が整ってより良い結果が出せていたかもしれない。
問題は休息を取らずに押し切ろうとしたことなのです。
バーガロンはすぐにトレーニングのやり方を変更しました。
ひたすら頑張るのではなく、しっかりと休息を取り入れました。
食事と睡眠に気を配り、精神を鍛えることも日課にしました。
結果はすぐに現れました。
2015年の大会で、ダウ”ィズドッティルは見事、優勝を手に入れました。
世界最強の女性になれたのです。
さらに翌年の大会でも優勝し、2年連続チャンピオンとなり、本書を執筆している時点で彼女は5年連続でトップ5入りをしています。
頑張ってもうまくいかないときは、さらに力を入れるのではなく、力を抜くことを試してみましょう。
ほんの1分でもいいのです。
活動を中断して休息をとれば、心身は驚くほど回復します。
エフォートレスな行動
あるポイントを超えると、努力の量は結果に結びつかなくなる
ノースカロライナ州立大学のラリー・シルバーバーグ教授は、動力学の専門家。
物体の動きを研究する学問です。
彼は20年間にわたり、数百本のフリースローを成功させるためにもっとも重要な要素を研究。
ボールを手放すときのスピードであることが、ポイントであることがわかりました。
繰り返し練習し、正しい力加減を筋肉に憶えさせる必要があります。
いちど体に覚え込ませてしまえば、あとはまったく苦労しなくても、自然にフリースローが入ります。
これがエフォートレスな行動です。
フリースローで力みすぎると、ボールが強く飛びすぎて失敗します。
仕事も同じで、力みすぎると、思うような結果が出ません。
「もっと頑張らなくては」と労働時間を増やし、全力を尽くすのですが、疲れるばかりでうまくいかないのです。
そんなときは、視点を変えてみることが必要です。
あるポイントを超えると、努力の量は結果に結びつかなくなります。
むしろ、パフォーマンスが低下します。
経済学ではこれを「収穫逓減(しゅうかくていげん)の法則」と呼びます。
たとえば著者は原稿を書くとき、2時間で2ページを仕上げることができます。
でも、4時間さらに頑張っても、4ページでなく3ページしか書けません。
生産性が低下するのです。
そんなとき無理やり書こうとしても、結果はついてきません。
多くの人は、アウトプットの低下を努力の量で補おうとするのです。
無理やり長時間働き、力ずくで頑張ります。
その結果、どうなるか利益率がマイナスになるのです。
あなたにも経験がないでしょうか。
人と仲良くなろうと頑張りすぎて、相手に挽かれる。
仕事で評価されようと必死になりすぎて、逆に能力のない人だと思われる。
眠らなければと焦りすぎて、目が冴えてしまう。
リラックスしよう、いい気分で居よう、と思うあまり、リラックスできず憂鬱になってしまう。
これらはすべて頑張りすぎの弊害です。
そもそも、ものごとが本当にうまくいっているときは、頑張る必要がありません。
仕事が最高に乗っているときは、「もっと頑張るぞ」と思わないはずです。
何も考えなくても、体が動く、ただ目の前のことに没頭できる。
ゾーンやフロー、ピークエクスペリエンスとも呼ばれる状態です。
これが大きな成果を出すためのスイートスポットです。
東洋哲学では、この状態を「無為」と呼びます。
無理に何かをしようとせず、流れに任せて、エフォートレスに成果を出すということです。
ゴールを明確にイメージする
仕事を困難にする確実な方法は、ゴールをあいまいにすることです。
なぜなら、明確なゴールがないプロジェクトは、けっして完成させられないからです。
ゴールが決まっていないので、延々と作業を続けるか、途中であきらめるしかなくなります。
プロジェクトの完成イメージは、修正しすぎてはいけないのです。
著者はいつも、コストとリターンが逆転するちょうど手前を「完成」としています。
1分間でゴールをイメージする
重要なプロジェクトを抱えているのに、なかなかエンジンがかからないことがあります。
そんな時は、「始まった状態」を明確にイメージするといいのです。
先延ばし癖のある人は、まず何をすべきかと言うゴールが明確に描けていないことが多いのです。
ゴールを描くことは、終わらせるためだけでなく、始めるためにも有効です。
次のように、ゴールを明確にしてみることで、よりスタートがラクになります。
あいまいなゴール→明確なイメージ
痩せたい→体重計を見下ろし、60㎏という数字を見ている自分
もっと歩こう→14日連続で1万歩歩いた記録がスマートウォッチに表示される
資料をつくろう→具体例と実行可能なアクションプランを盛り込んだ12ページのレポートを完成させ、クライアントに「これはすごい」と言われる
はじめの一歩を身軽に踏み出す
簡単なはじめの一歩を踏み出す方法として、著者は『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』を引用しています。
著者の佐々木典士さんは、最初の一歩を「今すぐ捨てる」ことと定義します。
これは、世界的名著になった近藤麻理恵さんの「ときめくもの以外は捨てる」に比べると、ずっと軽やかです。
近藤麻理恵さんのやりかたは、世界中をインスパイアしましたが、実行する際には「一気に、短期に、完璧に」やる必要があるからです。
それにくらべ佐々木典士さんは「この本を読み通してから捨てることはない。捨てながら技術を磨くのが一番だ。たった今この本を閉じてすぐさまごみ袋を用意したって言い。・・・捨てることが、すべてのはじまりだからだ」とあります。
著者はこれを読んで、すぐ本を閉じると、インクのかすれたペンをひとつ捨てたのです。
とても簡単で、そして気分が良かったと言います。
そこから著者はさらに10分間、他の物を捨ててみました。
古い名刺、短くなった鉛筆、読まないであろう雑誌の山、いつか使うかもしれないと思っていた充電ケーブルの束。
そして、本書を書きながら、ふと思い立ち、捨てそびれていたヘッドフォンの箱を捨ててきました。
2.5秒が未来を変える
最新の脳科学および心理学によると、「今」として体験される時間はおよそ2.5秒。
私たちは、つねに2.5秒を生きているのです。
2.5秒あれば、私たちは注意を切り替えることができます。
たとえば、携帯電話を置く。
ブラウザを閉じる。
深呼吸をする。
あるいは新しいこともはじめられます。
たとえば本を開く。
ノートを取り出す。
ランニングシューズを履く。
引き出しからメジャーを出す。。
同じ2.5秒で、無駄な行動もしてしまうことがあります。
テック企業は、この重要性を心得ているため、とても小さな単位でサービスを提供します。
140文字のツイッター。
フェイスブックやインスタグラムの「いいね」。
スクロールして一瞬で把握できるニュースフィード。
重要な方向に一歩踏み出すと、ゴールにたどり着くのは容易になります。
2.5秒をモノにして、最初の一歩を踏み出しましょう。
他にも、エフォートレスな行動にしていくために、大切なポイントとして、
・手順を限界まで減らす~必要以上の努力は誰のためにもならない
・よい失敗を積み重ねる
・早く着くためにゆっくり進む~全力疾走はリスクが高い
が挙げられています。
確かに必要以上に手をかけた仕事が、思いのほかうまくいかないことって多いです。
それよりも、「ここまで」と決め、そこに必要なエネルギーで到達したら、上手に休む。
そうすることで、ゾーンに入った集中した仕事を実現できると思いました。
休憩、大事ですね。
今週もお疲れさまでした。
ゆっくり休んでくださいね。
では、また。